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[ 2021年 7月 6日付 ]

 ファーストワットのA級パワーアンプ「F-8」をご紹介!

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "ichinose" です。

本日は、ネルソン・パス氏によるハンドメイドのA級パワーアンプ「F-8」をご紹介します。このアンプはシンプルで小さなA級アンプですが、音楽性が非常に豊かで、魅力的な個性を持っています。


25W+25W(8Ω)のミニマムパワーで、汎用性の高いアンプとは言えませんが、スペック以上の駆動力が備わっているので、一般的なご家庭の試聴環境であれば、効率の良くない小型スピーカーでも十分なパワー感が得られると思います。


■ Firstwatt(ファーストワット)と言うブランドについて

Firstwatt(ファーストワット)は、Pass Laboratories創設者の「Nelson Pass(ネルソン・パス)」氏によるハンドメイド製品の米国ブランドで、彼の“kitchen-table”プライベートブランドでもあります。

同社は、実効能率の高い、高品質のスピーカーのために、非常にシンプルで高品質な低出力オーディオアンプの開発を主旨として、1998年に創立されました。増幅コンポーネントとしてのオーディオアンプはどうあるべきか。その命題について、実験を重ね、設計、製作をしています。

自然界におけるシングルエンド動作、理想的なアンプの増幅動作を達成するために、三極真空管シングルアンプの音質の魅力を、半導体アンプで、それ以上に実現しようと試みられています。FirstWattアンプはチューブ(真空管)アンプとしばしば比較されていますが、チューブ自体を模倣するようには設計されていません。 

「ファーストワットで最も重要視しているのは最初の1ワットです。」この点をメインテーマにPASSのサブブランドとしてFirstWattをスタートし、音質に重点を置いた例を見ない低電力アンプが探求されています。FirstWattの製品はフィードバックがほとんど発生しない単純な回路を持ち、個々のゲインデバイスの性能を特徴としている点で、より優れたチューブ製品の特性をいくつかを併せ持っています。

小型アンプは、フィードバックがほとんど発生せず、単純なクラスA回路で、非常に高い品質を達成できる点で高出力の物に比べて多くの利点があります。また、シングル動作/ノンフィードバック/抵抗負荷の組合せによるハイファイアンプとしてその自然感のすばらしさや、サウンドステージの広さ、音響空間の正確性で大きな注目を集めています。

完璧なアンプというものは存在しませんが、スピーカー、音楽、リスナーのタイプごとに最適なアンプがあります。ファーストワットの各製品は、ユニークなデザインであり、ある特定の条件(低効率のスピーカーを大音量で鳴らさない)でベストなアンプと言えるかもしれません。


■2009年・J-2

■2010年・M-2

■2012年・SIT-2

■2014年・F-6

■2016年・F-7


初代からの製品を並べてみると良く分かりますが、このブランドの製品が全て同じように見えるのは、すべて同じ基本シャーシと電源トランスを使用しているからです。

一切装飾が施されていないので、一見愛想の無いデザインに見えると思いますが、ハードウェアデザインが固定されているため、様々なアイデアを試したり、異なる設計の比較が容易となっているのです。

シングル動作なので入力端子もアンバランスのみとなります。当然スピーカー端子も1系統のみでこれ以上のシンプルは望めない設計です。


■ 新製品のFirstwatt「F-8」とは

「F-8」の試作モデルは、12年前に「J-2」アンプの出力段はそのままに、フロントエンド回路を別のものにしたデザインで開発されていました。その試作品は明らかな改善がみてとれましたが、当時は「J-2」の人気が依然として高く、最終製品として日の目を見る事はありませんでした。

それから更に6年経過し、出力ステージにも手が加えられ、今回ようやく「F-8」としてリリースすることになりました。「F-8」は、ステレオ2ステージ構成のシングルエンドA級アンプです。信号ゲイン用にNOS※東芝2SJ74 PチャンネルJFETとSemiSouth R100 SiCパワーJFETを使用しています。

さらにIRFP240 Mosfet mu-followerカレントソースでそれぞれの動作点を設定します。結果、信号ゲイン関しては、チャンネルあたり合計3個のデバイスのみで構成されています。

※NOS(New Old Stock)= 既に生産が終了し再び作られる予定のないパーツ。FirstWatt社の保管庫に在庫してあるパーツになります。

「F-8 」は「J-2」アンプに似ていますが、フロントエンドのトランジスタが6個ではなく1個だけで「J-2」の電圧フィードバック(VFA)差動入力に対して、電流フィードバックアンプ(CFA)として動作します。

「F-8」は入力回路に東芝製2SJ74 PチャンネルJFETを1個使用しており、アンプの出力でバイアスをかけています。このフロントエンド設計は、より純粋な2次高調波特性、低負帰還による歪みの低減、広い帯域幅と高いダンピングファクターを実現しています。

「F-8」はCFA(電流帰還型アンプ)と呼ばれます。CFAトポロジーには、回路がシンプルであること、伝達特性が滑らかであること、測定上の性能が良いことなどの利点があります。ロールオフ周波数1Hzの大型電解コンデンサ2個とポリプロピレンコンデンサ1個を使用した出力カップリングを採用しています。

「J-2」と「F-8」を比較すると、かなりの部分が類似してますが、「F-8」は、いくつかの分野で改善が見られます。特にダンピングファクターと高域特性は倍以上向上し、歪みの値も低くなっています。











■ Nelson Pass (First Watt主宰者)のコメント

オーディオファイルは、歪率特性はあまり意味をなさないとよく言いますが、それは正しくありません。確かに歪率特性だけで製品を評価するのは正しくありませんが、無視されるべきではありません。

私は、優れたいくつかのフィードバックなしのソリッドステートアンプや真空管アンプと共に過ごしてきました。その結果、私自身の嗜好の一端が製品開発に影響しているのに気づきました。

私の好みは、2次または3次高調波特性、もしくはフィードバックがあるかないかに関係なく、歪率特性が大きな位置を占めていることに気づきました。具体的に言うと、歪率が測定上0.1%以下のアンプが好みでした。

現在は勿論、着目すべきポイントは数多くありますが、他の条件が同一なら歪率は重要になります。JFETは、歪みの大小、回路のシンプルさと複雑さ、フィードバックの有無、これらの間を逡巡してきた我々に優れたアンプを生み出す大きな新たな力を与えてくれます。


■ 最後に、ハイエンドオーディオ担当の "ichinose" より、コメント。

「F-8」は基本的には初代「J-2」からの基本設計が継承されており、その特徴である「シンプル」「小出力」が貫かれています。決して全ての方に、お勧めできる製品(スペック)ではありません。Firstwattの特徴を理解した上でご検討いただきたいと思います。

試聴環境やシステム構成など使う側にも、ある適度の覚悟※が必要となる製品ではあります。シンプルを極めたと言える設計により、芸術的な音楽再生が実現できると評価されている製品です。

ぜひ、魅力溢れるこのサウンドによる充実感と満足感をより多くの方に味わっていただきたいと思います。

※覚悟・・とはいえ、一般的な日本のオーディオ試聴環境は、通常数ワット程度しか鳴らせない方(もちろん私も含めて!!)が多いと思いますので、特に問題なく使えるかもしれません。
(ichinose)


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