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[ 2018年5月1日付 ]

〜今やレジェンドとなった村田製作所のスーパーツイーターの再来か!?〜
ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
今回は、KIT-HITから登場したスーパーツイーターの『 HIT-STF 』の実力と、従来機との差について迫っていきたいと思います。
筆者の最大の関心事は、ダイヤフラムを従来機の円筒形から半円筒形にしてコストダウンが図れたと言うが、果たしてそのパフォーマンスは落ちていないか?という点でした。


■ 株式会社KIT-HITとは

株式会社KIT-HITは、2005年6月設立の九州工業大学発のベンチャー企業で、オリジナル技術に基づくスーパーツイーターを開発してきています。

九州工業大学と共同開発した発音素子は、厚さが数ミクロンという極めて薄い電気活性高分子のダイヤフラム(振動板)で構成され、周波数特性は1MHzまでと広帯域なので、声楽や楽器などの高域における倍音成分の再生に優れているとしています。

電気活性高分子のダイヤフラム両側には、特殊金属電極を構成し、これに音楽信号に合わせて昇圧した高電圧変化を加えることによって、ダイヤフラム全体を同時に振動させます。そのためダイナミック型のような不規則、不均一な分割振動をしないので、超高速応答が可能です。同様な素材には「圧電セラミックス」が存在しますが、「圧電セラミックス」より約20倍にも及ぶダイナミックレンジを実現したと言います。

その「圧電セラミックス」を使ったスーパーツイーターこそ、今やオーディオ界で伝説となった、村田製作所のスーパーツイーター「ES103(A/B)」「ES105」でした。発振体にはセラミックの圧電現象を利用した球形セラミック振動子を使い、固有共振周波数(fo)を100kHz以上として周波数特性も15kHz〜100kHzを誇っていました。

この2000年発売の村田製作所のスーパーツイーターは、その前年のSACDの登場もあり、本格的なハイレゾ(当時こんな言葉は存在しませんでいたが)再生の必然性もあり登場したのでした。しかし結果的には、村田製作所のスーパーツイーターを使うことで、CD再生はもちろん、アナログディスク再生においても音質の改善度合いが顕著で、抜群のプレゼンス感やリアル感が得られることから人気を博し、大ヒットを記録したのでした。しかし惜しまれつつ2010年製造が中止されてしまいました。

ここで話をKIT-HITに戻します。


HIT-ST1

KIT-HITの初代機は「HIT-ST1(現在 生産中止)」で宇宙を意味する"宙(Sola)"と名付けられました。当時、新開発の合成高分子素材フィルムを使用し、世界で類を見ない速い音の立ち上がりと、1000KHzまで追随できる性能を有していました。フィルムを円筒状に構成しているため、全方位に平面波を発生させることができ、広がりのある豊かな音を、場所を選ばず、しかも離れた所でも効果を発揮しました。

続いて「HIT-ST1」の廉価版として同一振動板(ダイヤフラム)を使った「HIT-ST10(生産中止)」が発売されベストセラーとなりました。さらに「HIT-ST1」を二階建てにして、上下の指向性を改善した「HIT-ST1W(生産中止)」を完成させ、圧倒的な音場再現力を発揮しました。


 HIT-ST10

そして、ダイヤフラムの電極部に使用する金属素材を見直した「HIT-ST2」が登場。従来モデルにあった周波数特性上に存在したディップを改善することに成功し、より素直な周波数特性を実現したのです。また、ダイヤフラムの厚みを変更することで聴感上の音圧も改善できたのです。

さらに、その新しいダイヤフラムを採用し、「HIT-ST10」の考え方を継承しコストダウンを図った「HIT-ST20」を登場させました。これにより多くのオーディオファン・音楽ファンにクリアで瑞々しく、音場感溢れるサウンドを提供できるようになったのでした。

HIT-KITが採用する円筒構造のダイヤフラムは、ドーム型などの一般的なスーパーツイーターの様な球面波(距離の二乗で減衰)ではなく、平面波(距離に比例して減衰)を発生させることから、数字上出力音圧レベルの遙かに高い高能率のスピーカーと組み合わせても、まったく問題なく効果を発揮すると言います。

ただ平面波であることから、トールボーイスピーカーなどの上部に置くことで、ダイヤフラムの高さがリスナーの頭上を越えてしまわないことが条件で、スーパーツイーターがほぼ耳の高さになるようにセッティングすることが必要となります。

■ 『 HIT-STF 』

今回レポートした『 HIT-STF 』は、上位モデルと共通の発音体フィルム素材を使用した半円筒形ダイアフラムを搭載し、シリーズ中、最もコンパクトなエントリーモデルとして誕生しました。そのパフォーマンスを探ります。メーカーパンフレットには・・・

「スーパーツイーターHIT-STシリーズに新たなエントリーモデルが誕生」

1.ダイヤフラムに上位モデルと共通の素材を採用
ダイヤフラムは上位モデル「HIT-ST20」「HIT-ST2」と共通の合成分子素材フィルムを使用。形状を半円筒形にすることで、前方エリアの音色、空気感の高い再現能力を実現しつつコストダウンに成功。

2.優れたリニアリティとハイトランジェントを両立
応答特性に優れる合成高分子素材フィルムを使用することで、素早い音の立ち上がりを実現し、音を忠実に再現。


3.メインスピーカーの再生能力を最大限発揮
お手持ちのスピーカーに『 HIT-STF 』を追加することで、高域を補正するだけでなく、楽器の低音成分の再現性が向上し、ハイレゾ音源のみならず、CD、アナログレコードにおいても、メインスピーカーの再現能力を最大限に発揮。

とあります。

『 HIT-STF 』の試聴前、あまりに価格がリーズナブルなため、筆者には2つの懸念がありました。 音圧レベルは従来機同様86dB/w/mと同じだが効果はどうか。今ひとつはダイヤフラムが従来の円筒から真っ二つに縦に割った様な半円筒になったことで、パフォーマンスが落ちていないかでした。

■ 試聴しました
さて、筆者自宅で実際に『 HIT-STF 』を試聴しました。

スピーカーに載せるだけダイヤフラムが円筒の前半分

まず、『 HIT-STF 』をアドオン(追加)してのサウンド変化で最も印象的なのは、低域の充実です。これは以前上級機「HIT-ST20」の試聴の際にも感じた印象と全く同じでした。

本来スーパーツイーターは、超高域の補正のために使用すると言うのが常識です。確かに普通のスーパーツイーターの使用目的はそうでしょう。ただ筆者が使っている自宅のスピーカーはリボンツイーターが搭載されており、一応データ上は100kHzまでカバーしており、普段特に高域不足を感じることはありません。

低域の充実は、前述の村田製作所の「ES-103」等とも同じでした。低域が深く沈み、音程もはっきりするのです。従来から低音感は十分あったのですが、そこに解像度が加わり、リアルな低域になったのです。これは恐らく周波数特性が100kHzまで伸びたことで、高域はもちろん、低域においても急峻な立ち上がりが正確に再現された結果だと思います。

この早い立ち上がりにより音を忠実に再現することができることや、各楽器の高域の倍音まで再生することが可能なため、より自然な音でしかも一つ一つの楽器の音がメリハリと力強さを合わせ持ち、音場感溢れる音楽を楽しむことができるようになったのです。

さらに具体的には、中低域の厚みが増し安定感が加わりました。ボーカルは口が小さくなり、女声ボーカルには包み込まれるような温かさが加わり、高い声も自然に伸びきり、とても心地よく感じました。目の前に歌手がすくっと立ち、まさにマイクを通していない生の声で、一瞬ドキッとさせられました。

また、口笛(ink/Livingston Taylor)も伸びやかでヌケが良く、唇の厚みさえも感じられました。試しに『 HIT-STF 』を外すと、元のように薄いベールを一枚かぶってしまい、ヌケも悪くなったのです。この効果こそトランジェント(過渡応答)の良さでしょう。

楽器でも、ピアノは従来若干感じていた硬さが完全に取れ、ベースは厚みを伴って沈み込み、弦楽器はしなやかで透明感が向上し、プレゼンスが豊かになりました。それぞれの楽器が分離し、リアルに浮かび上がって来たのです。

アナログ再生機器との相性も抜群で、低域が締まり、曖昧な感じが消え去り、コリッとした小気味良いものになりました。そしてボーカルは一瞬ライブかと感じる程、艶のある歌声を聴かせてくれました。

『 HIT-STF 』は従来からの一般的なスーパーツイーターとは違った音質変化と、生演奏を聴いているような迫力や、臨場感を肌で感じさせてくれます。一度お使いになると、他のあらゆるグレードアップ法より確実で、きっと手放せなくなることでしょう。


■ 最後に
最後に、「ダイヤフラムを従来機の円筒形から半円筒形にしてコストダウンが図れた」と言うことですが、一般家庭(10畳位までのお部屋)のリスニングルームでは、背面の壁材等の影響を受けることなく、『 HIT-STF 』の効果を十分ご享受いただけることを確認したことをお伝えしておきます。 (あさやん)


キットヒット『 HIT-STF 』

今回ご紹介したキットヒットのスーパーツイーター