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[ 2018年7月31日付 ]

  アキュフェーズ純A級パワーアンプ『 A-75 』その完成度に脱帽! 〜 パワーアンプでもまだまだやることがあった!? 〜
ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
アキュフェーズ純A級ステレオパワーアンプの最高峰「A-70」が4年ぶりにバージョンアップし、『A-75』としてこの夏登場しました。既に完成度が非常に高く、人気の前作「A-70」をどういうアプローチでブラッシュアップしたのか見てまいります。


■ パワーアンプの理想は純A級アンプ

純A級アンプは、アンプの動作方式としては、音質が最も優れている方式とされていますし、事実そうです。それは、アンプは増幅特性が入力に対してリニアである(入力信号に正比例した出力信号が得られる)ことが理想であるからです。

A級アンプは、増幅素子の入出力が比例する直線部分に動作点を設け、入力信号に対し、絶え間なくバイアスを与えることで、入力と相似の出力が得られ、交流信号の+と−を1本のトランジスタで動作させる「シングル」と呼ばれる方式をとります。ただ後述するように、『A-75』では「プッシュプル」構成をとり、A級60Wという大出力を得ています。

A級アンプは、音楽を鳴らしていない時でも常に一定のアイドリング電力を供給しなければならないため、電源効率が50%程度と低く、その分発熱量が多くなってしまいます。つまり電力の半分しかスピーカーを鳴らすためには使われず、あとの半分を熱として放出するという非常に無駄の多いシステムで、特に入力信号のレベルが小さいときほど熱に変換される損失分が増えるため、無音状態で最も熱くなってしまいます。

この効率の悪さこそ音質的には有利に働くことは確かで、過去には多くの銘機が存在しました。筆者も本格的にオーディオをやり始めて50年になろうとしていますが、原体験とも言えるヤマハ「CA-1000」以来、パワーアンプの理想はやはり純A級アンプとの思いが強く残っています。今から考えてもそれ程に音に説得力があったのです。

アキュフェーズもA級アンプに対して筆者と同じような考えを持っており、同社の資料には、「A級アンプが醸し出す魅力的な音色は、オーディオファイル憧れの的となっています。アキュフェーズは1979年に発売した「P-260」以来、これまでに約20機種のA級パワーアンプを開発し、そのノウハウは脈々と次の世代に受け継がれて来ています。」とあります。

『A-75』は同社フラッグシップの純A級モノラルパワーアンプ『A-250』の開発ノウハウを投入し、前作よりさらに高精細な表現力を目指し、音質検討を繰り返して完成させたとしています。


■ 【1】パワーMOSFET 10パラレル・プッシュプル構成のA級動作


図1

公式には発表されていませんが、今回MOSFETが前作から変更されているようです。それを 10パラレル・プッシュプル構成(図1:電力増幅段)とすることで出力を強化し、スピーカーを理想的にドライブできるとしています。

通常のプッシュプル構成では、交流波形の上半分をハイサイド素子で、下半分をローサイド素子で別々に増幅して大出力を得るのですが、『A-75』ではハイサイド素子・ローサイド素子の同じ出力を合算することで、A級でも480W/1Ω(音楽信号に限る)、240W/2Ω、120W/4Ω、60W/8Ωの安定したリニア・パワーを得ているのです。


■ 【2】ディスクリート構成によるフルバランス入力回路&フルバランス伝送化


図2

信号入力段を含めたパワーアンプ全体で、バランス・アンプを構成しており、入力端子からのアンプ内部の信号経路をフルバランス伝送化(図2:インスツルメンテーション・アンプ)しています。このため、機器内で発生する雑音を除去する能力やひずみ率などの諸性能に優れているだけでなく、周囲の環境変化に非常に強く、パワーアンプとしての安定度・信頼性が飛躍的に向上したとしています。


■ 【3】その他の前作「A-70」からの改善点

1)S/N比の改善
各回路の役割分担を明確にし、無理のない安定した性能を引き出すことで低雑音化を図り、S/N比、ひずみ率など諸特性が大幅に向上し、特にS/N比はゲインMAX時122dB(前作:121dB、因みに前作はその前作「A-65」から6dB向上させていました)、ゲイン −12dB時 128dB(127dB)という数字としては僅かですが、このレベルでは驚異的なS/N比のアップと言えます。

2)ダンピングファクター:1000を実現
スピーカーの駆動力を示すダンピング・ファクターは、8Ωのスピーカーに対してパワーアンプの出力インピーダンスがどの位低いかという値で、数値が大きいほどスピーカーからの逆起電力に打ち勝ち、スピーカーを駆動する能力が高くなります。本機では保証値として1,000以上(前作:800)を実現し、スピーカーの理想的な駆動を実現したのです。

3)新開発のケミコンを採用
これも公式にはアナウンスされていませんが、アルミ電解コンデンサーも性能や音質を重視して箔の材質やエッチング、電解液などを選び抜いた特注品を採用した100,000μF(前作:82,000μF)の超大容量型を2個搭載し、揺るぎない余裕度を誇っています。

4)"ガラス布フッ素樹脂基材(通称:テフロン)"基板を採用
電気的・音質的に重要な要素を占めている電力増幅段には、非常に高価で入手と加工が難しく、高周波特性が優れた素材のガラス布フッ素樹脂基材によるプリント基板(前作:ガラスエポキシ樹脂)を採用し、さらに音質と信頼性の向上を図っています。

5)見やすくなったバーグラフ・メーターを搭載
アナログ・メーターをシミュレートした動作によるバーグラフ(38ポイントLED表示)パワーメーターを装備。ドットを大型化し、指標を太くすることで視認性を向上させ、−50dBの表示(前作:-40dB)を可能にしました。


■ 試聴しました

日本橋1ばん館リファレンスルームでの『A-75』の試聴は、「DP-750」→「C-2850」→『A-75』→各種スピーカーで行いました。写真のようにまずは前作「A-70」との比較試聴から始めました。(上:前作「A-70」下:『A-75』)

「A-70」と比べて一瞬で静かだと感じました。“僅か1dB、されど1dB”を実感させられました。サウンドが澄みわたり見通しも良くなり、くっきり鮮明でした。声が瑞々しく息遣いも分かる程でした。

情報量も圧倒的で、ワイドレンジで音数がとにかく多く感じました。駆動力も前作を上回り、B&W「802D3」も難なくドライブし、特に低域の駆動力には一日の長がありました。

しばらく聴くうちに、写真のように見た目は余程詳しく見ないと分からない違いなのですが、正直その音を聞き比べるだけで「A-70」と『A-75』が分かってしまいました。このクラスの、しかもパワーアンプで、まだまだやることがあったのには驚きとともに、アキュフェーズの底力を感じました。(あさやん)


アキュフェーズA級パワーアンプ


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