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[ 2019年 1月 15日付 ]

 ソニーの超弩級DAP『 DMP-Z1 』を徹底解説!

ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
今回は、ソニーの超弩級デジタルオーディオプレーヤー『 DMP-Z1 』を取り上げます。この小ささの中にハイエンドオーディオのノウハウを詰め込んだ【 とんがったモデル 】でした。


■ 私とデジタルオーディオプレーヤー
私はここでデジタルオーディオプレーヤー(以下、DAP)を取り上げることに、正直とても躊躇していました。と言いますのも、私には「オーディオとはスピーカーの音を空間を介して(部屋の空気を動かして)聴くもの」と言う信念があります。演奏会場やスタジオはそれ自体が空間=音場であり、その音場も含めて録音されているのですから、空間を介する(空気を動かす)必要があると考えるためです。

そのDAPなどでのヘッドホンリスニングは、録音された音や楽器のチェック、演奏の善し悪しの判断は十分可能だと思います。しかし、耳の直近や耳の中に振動板が存在するヘッドホンには、音場(=空間)の表現ができない(※バイノーラル録音ではある程度音場の再現は可能です)と考えます。それは、スピーカーリスニングとは別次元の再生システムなのです。ただ、私も通勤電車内ではヘッドホンにお世話になっており、ヘッドホンリスニング自体を否定するつもりは毛頭ありません。

少し講釈が長くなってしまいましたが、だったら何故『 DMP-Z1 』なら良かったのかを、ハイエンドオーディオの視点で見てまいることにいたしましょう。

■ DMP-Z1とは
ソニー『 DMP-Z1 』は、日本での発表の前、2018年8月の香港、9月のベルリンのオーディオショーで先行発表され、当地で話題騒然となり、日本でも異常なほど注目を集めました。そして遅ればせながら、10月に国内発表、12月に発売とのアナウンスがあったのでした。

ソニー『 DMP-Z1 』は、Joshin webショップの「試用レポート」や「特設ページ」に詳しくご覧いただけますので、今回私は「ハイエンドオーディオの担当者」の立場から、本機をレポートします。

まず気になったのは、その大きさ・重さです。ソニーとしては「ウォークマン」ではなく、「ハイレゾプレーヤー内蔵アンプ」と呼び、「ポータブル」ではなく「キャリアブル」という言い方をしています。要するに、今までにない新しいコンセプトのDAP(ソニーでは、DMP=デジタルミュージックプレーヤー)だとしています。

■ DMP-Z1のハイエンド機器としてのこだわり
重さは約2.5kgありますが、「キャリアブル」と呼ぶ所以はバッテリーを搭載していて、4時間のフル充電で、9〜10時間程度の再生が可能だというためです。

オーディオ歴の長いマニアの方はお分かりだと思いますが、オーディオ機器の理想はバッテリー駆動であり、AC電源のデメリットを如何に克服するかが、オーディオの大きな目標であり続けています。バッテリー駆動は究極のクリーン電源なのです。

そのバッテリー駆動の電源は合計5セル(単電池)のバッテリーパックで供給しており、デジタル回路には角形を1セル、アナログ回路はプラス/マイナス用に円筒型の2セルをそれぞれ使っています。これによりデジタルとアナログは勿論、左右チャンネルも完全に独立させ干渉を回避した、徹底的にこだわったバッテリー電源です。しかもバランス駆動なのです。


▲ バッテリー電源

そして本機では、「NW-WM1Z」をはじめ、現行のウォークマンで採用されているフルデジタルアンプ「S-Master HX」ではなく、あえてアナログアンプを搭載したことで、この巨大なプレーヤーになってしまったのです。デジタルの覇者 ソニーの技術陣が如何に音質のためとはいえ、本機にアナログアンプを選択したことには敬意を表するとともに、並々ならぬ意気込みさえ感じます。

ただ、我々オーディオマニアにとっては、どうしても「S-Master PRO」を搭載した、2003年発売のSONY最後の高級プリメイン「TA-DR1」を思い出してしまいます。やはり「S-Master」はSONYのオーディオ技術のメインストリームのはずなのですが・・・。如何に高出力のためとはいえ、従来からの主張との矛盾はちょっと気になるところではあります。

そのアナログアンプには、TI(テキサスインスツルメンツ)のステレオHi-FiヘッドホンアンプIC「TPA6120A2」を2基搭載。ロータリーボリュームは、世界最高性能を誇り、高級プリアンプで使われることの多いALPS(アルプス電気)製50型金属軸高音質タイプボリューム「RK501」を、本機のためにカスタマイズ(重厚な真鍮ケースを接触抵抗の少ない銅でコーティングした上に更に金メッキ)して搭載。ノブもアルミの削り出しという贅沢の極みです。


▲ TPA6120A2


▲ RK501


▲ ロータリーボリュームのノブ

そしてそして、DACには何と、AKM(旭化成エレクトロニクス)の最高峰DACチップ「AK4497EQ」をチャンネルセパレーションを有利にするため、左右独立で2基搭載しています。この「AK4497EQ」こそ、エソテリックなどのハイエンド機器の多くに採用され、その実力の程は既に実証済みです。DAPではあり得ない快挙ともいえます。これにより、「DSD:11.2MHz」や「PCM:384kHz/32bit」のネイティブ再生、さらにはMQAも再生可能です。


▲ AK4497EQ

さらに極めつけは筐体構造です。軽量かつ高剛性という難題をH型アルミ押し出し材を切削加工して、側面とシャーシを一体化。アンプ基板とデジタル基板を上下分離し、デジタル基板の下には金メッキした無酸素銅プレートを挟み込むなどして、GND(アース)を強化し、ノイズの影響を抑えるという、ここにもハイエンド機器の手法を投入しています。ゴム脚は内部にソルボセインを使用した3層構造にするなど振動対策も万全を期しています。


▲ H型アルミ押し出し材を切削加工

また、瞬間的な大電力にも対処するため、「電気二重層コンデンサ」を合計5個搭載。内部配線にも手抜きはなく、定評のある米国KIMBER KABLEが使われています。更に基板の配線も一般的な角張ったモノではなく、ハイエンド機器で見られる曲線で描かれ、信号が自然に流れるパターンを採用。ハンダに至るまで、新開発の金入り「高音質ハンダ」を使うなど、そのこだわりは半端ではありません。


▲ KIMBER KABLE


■ DMP-Z1のこだわりの機能
新開発の「バイナルプロセッサー」が注目されます。これはアナログレコードの再生時に生じる「サーフェイスノイズ(針が盤面を滑ることによって生じるサーというノイズ)」が音の立ち上がり(初動感度)を良くするという考え方。

そしてもう一つは、スピーカーの音圧がレコード盤やそれを支えるプレーヤーに伝わること(空間フィードバック)で針先に影響を与え、豊かな響きが得られるという考え方です。これらがアナログの音が良く感じられる理由だとしています。

この理論に基づいてDSP処理を加えることで豊かな音の再生を可能にしたのです。しかし、これは私の考え方とは少し違う点もあり、諸手を挙げて賛成とはいきません。私の考えるアナログの良さとは

 @デジタルのように入れ物に制限が無く、歪みながらも伸び切る良さ
 A物理的に針を溝に引っかけることによる立ち上がりの良さ
 B何より音の連続性による自然さ

だと考えます。ノイズや振動の影響とは考えにくく、ここは個人の意見の分かれる所です。

そしてこだわりの(削減)機能の極致は、アナログ出力がヘッドホン出力(4.4mmバランス、3.5mmアンバランス、いずれも高出力)のみで、外部機器への入出力はデジタル(USBまたはBluetooth)のみのシンプルさです。これは、ラインアウトや切り換えスイッチを付けることで、ヘッドホンリスニングに多少なりとも影響が出ると考えた結果だといいます。ただ、やはりアナログアウトが欲しいと思うのは、私だけではないと思います。

トップパネルには800×480ピクセルの3.1型タッチパネル液晶、音楽再生画面を中心に上下左右にスライドすることでスムーズな操作が可能です。256GBの内蔵メモリーに加え、microSDカード用スロットを2つ搭載。

さらに、外出先に本機を持ち出すための専用キャリングケースも付属しています。背面のUSB Type-C端子により、パソコンから本機へ楽曲を転送したり、接続したパソコンの音楽を本機を通して(USB-DACとして)ヘッドホンで聴くことも可能です。

本機の細部の仕上げにこだわった質感は抜群で、ハイエンド機器ならではのシンプルな外観となっています。私の所有欲を大いにかき立てる優れたデザインです。

■ 最後に
ヘッドホンリスニングでの音質に一切妥協しない【 とんがった挑戦的なモデル 】それが『 DMP-Z1 』です。「ソニーらしさ」「It's a sony.」の復活を確信しました。

その再生音については、ヘッドホン個々での印象の違いがあり、ここでは多くは述べませんが、私のようなスピーカーリスニング派にとってもそれは衝撃のサウンドでした。

第一印象は低域から高域にわたる全帯域でのスピードが揃っていることです。これはスピーカーでは至難の技です。また細部のディテイルがさすがにスピーカーでは無理なレベルまで再現され、その情報量の多さには圧倒されました。音の鮮度、凝縮感、伸びやかさはヘッドホンリスニングならではと感じました。

今回『 DMP-Z1 』を聴いて、スピーカーリスニングとヘッドホンリスニングには、それぞれ別次元の異なる楽しさがあるのだと、改めて感じました。(あさやん)



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