■ VPI Industries Inc. とは
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VPI Industries Inc. (以下、VPI) は、アナログ再生とカーレースに情熱を傾けるアメリカの技術者 ハリー・ワイスフェルド (Harry Weisfeld) 氏によって、1978年に設立されました。
当初、ターンテーブルの構造を隅々まで研究し、試行錯誤しつつ、理想のターンテーブルを開発するための小さな工房を、地元のニューヨーク (その後、ニュージャージーに移転) に設立したのです。
同社のターンテーブルは、優れた剛性と制振性を誇る異種素材を組み合わせたハイマス/高剛性リジッド構造のキャビネット、および、ユニ・ピボット構造の独創的・合理的設計によるトーンアームを主軸に、重量級プラッター、安定した回転を誇るフォノモーターなど、一貫した基本設計思想を貫いてきています。
この設計思想は創業以来一貫しており、欧米のアナログ・ファイルの高い評価を確立しています。アメリカの個人工房から、世界のリファレンスターンテーブルが生まれたのです。
日本国内には、2000年代後半からエソテリックが輸入を始め、2007年の「Scout+J9」、2009年に「Classic Turntable」「Scout masterII」、そして2013年の「Traveler」と続きましたが、その後はVPIの定番商品であるバキューム方式のレコードクリーナー「HW-16.5」のみの状態が5〜6年続き、もうプレーヤーは輸入しないのかと思われていました。
VPIの本国のホームページを見てみると、超ハイエンド機を含め、多数のプレーヤーやトーンアーム、フォノイコライザーなど、アナログ機器を幅広く展開しています。
この度、同社の社内体制が変わったこともあって、エソテリックはまずは手始めに、今回ご紹介いたします『 Prime Scout 』から輸入を再開したとのことです。
その『 Prime Scout 』は、同社としてはエントリークラスのプレーヤーで、輸入品としては比較的低価格に抑えられています。
少々マニアックではありますが、本機を使いこなすことができれば、超ハイエンド機にも迫るパフォーマンスを発揮できると思います。では、そのあたりを順に見てまいりましょう。
■ ユニ・ピボット構造のトーンアーム
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トーンアームは自社開発の「JMW-9」です。スパイクによる1点支持で、ベアリング部の摩擦 (フリクション) を極限まで減らして、感度を高めています。この摩擦が、感度やトレーシング能力に大きな影響を与えるため、理想のベアリング構造として、ピンポイント・スパイクによるユニ・ピボット・ベアリングを採用したのです。
アーム支点部の黒い円筒は、アームベースに取り付けられた極めて鋭利なスパイクと内部でピンポイントで接しています。
そのままではフラフラの状態ですが、ひとたびレコードに針を下ろすとピタッと安定します。この結果、ベアリングの摩擦を事実上ゼロにすることができ、アームの感度、コンプライアンスを極限まで高め、安定したトレースと滑らかな動作を実現できたのです。
また、トーンアームはシェル一体型のインテグレート型ですが、ヘッド部からカウンターウェイトを含めた可動部全体が簡単に着脱できため、カートリッジ交換も容易に行えます。
アームをピボットに載せて、アームのケーブルをレモコネクター (スイス LEMO社製) にカチッと接続するだけの極めて合理的な設計です。これらによるアームの高感度こそが、カートリッジの特性を十分に引き出してくれるのです。
カタログにはありませんが、ラテラルバランスやインサイドフォースキャンセラー (VPIは不要と考えていますが、一応付属されています) 機能も装備されており、さらに完璧な調整が可能です。
■ 重量級プラッター(ターンテーブル)
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アルミニウム削り出しの4.76kg重量級プラッターで、ランブルノイズ (レコード特有のゴロ音) を大幅に排除し、充分な慣性モーメントで安定した回転精度を実現しています。
また、レコードをターンテーブルに吸着させるためのデルリン (樹脂) 製のねじ込み式クランパー、ゴムワッシャーが付属しており、高音質再生が可能です。
■ フォノモーター
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駆動力の高い300rpmのACシンクロナス・モーターは、強固な重量級スチールハウジングで本体とは独立構造としており、モーターの振動の影響を効果的に抑制し、漏洩磁束が外部に漏れるのも防止しています。
シンプルな回路構成とすることで、ターンテーブルの安定した回転をサポートしています。
33/45回転の切り換えはプーリーの掛け換えによって行い、プーリーの動力はゴムベルトを介してプラッターに伝わります。
■ キャビネット
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キャビネットのベース部は重量級MDFと肉厚スチールプレートの異種素材積層構造とすることで、リジッド構造ながら制振性に優れ、高いハウリングマージンを確保できています。また、素材固有の共振モードを効果的に分散させることで、クリアでナチュラルな音質も獲得できたのです。
脚部はキャビネットの四隅にマウントされており、高さ調節が可能なデルリン製アイソレーションフットを採用しています。キャビネットの作り自体はシンプルですが、全体的には剛性は極めて高いものとなっています。
また、本機専用の国産の比較的安価なダストカバー「VP/COVER-PSC」 (ヒンジ式ではなく、スッポリ覆ってしまうタイプ) もオプションで用意されています。
■ さて、本機のパフォーマンスは?
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VPI『 Prime Scout 』は、"オーディオセッション in 大阪" のエソテリック・ブースで説明を受け、試聴しました。
ESOTERIC担当者曰く、『 この作りでこのサウンドは絶対お買い得! 』『 このマニアックさもたまらない 』『 追い込めば追い込む程パフォーマンスが上がっていく、本来のアナログの世界が実現できるプレーヤー 』だと・・・。
本機のパフォーマンスを一言で表すと、高解像度かつ広ダイナミックレンジのプレーヤーです。ターンテーブルのS/N比の良さと、トーンアームの感度の高さが絶妙にコラボレーションした【 新時代のアナログプレーヤー 】と言える製品です。
具体的には、明確な定位、綺麗な余韻、しっかりした低域、繊細で透明な高域、艶っぽい女声ボーカルなど、従来のアナログの代名詞でもある、『 温かく・マイルド 』なだけの世界とは一線を画する本格的サウンドです。最新のハイエンドデジタルとも十分渡り合える、『 リアル感・繊細感 』も表現できます。
VPI『 Prime Scout 』は、価格こそエントリークラスながら、超ハイエンド機に迫る【 新時代のアナログプレーヤー 】と言えます。ヨーロッパ製のプレーヤーが主流のアナログ界ですが、アメリカ製プレーヤーの底力を感じました。(あさやん)
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