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デビュー25周年記念アルバム 全曲ニューレコーディング
横山幸雄デビュー25周年記念アルバムは、横山幸雄の原点であり、その魅力溢れるピアニズムで多くの聴衆を魅了し続けてきたショパンの名曲中の名曲を横山自らが厳選、新たにDSDフォーマットでレコーディングしました。
25年という時間の変遷を経て熟成した深い芸術性は、聴く者に大いなる飛翔を印象付けます。収録されている再レコーディング曲を、以前のアルバムと比較するのもまた一興でしょう。まさに巨匠への道を確実に歩む横山の「今」を刻印した金字塔的アルバムです。
横山幸雄は、絶えず聴衆に驚きを与えてくれるピアニストである。なんといっても衝撃的だったのは、2011年のショパン・ピアノ独奏曲全212曲のリサイタルである。18時間に及ぶ全曲暗譜演奏の達成は、その偉業のみならず、演奏の質の高さも非常に大きく評価された。ショパンの作品は、技術の難渋さをクリアするだけではなく、その先にあるものを見据えた演奏ができなければ何の意味もない。このショパン・アルバムによって私は改めてそれを実感した。これまでにショパンはもちろん、様々な作曲家の作品で横山の演奏を聴き、感じてきたのは、彼の奏する音色の"力"の強さである。
音量の大小という問題ではなく、聴く者を惹きつける輝きに満ちているのだ。これは真に「ヴィルトゥオーゾ」と呼ぶにふさわしい。
この魅力的な音色を駆使して奏される「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」に「英雄ポロネーズ」、さらに「革命」や「別れの曲」といったエチュードでは、華麗な技巧の誇示には決して終わらない。
旋律と和声の関係性、移り変わる楽想の変化を的確に捉え、よりドラマ性の強い解釈に昇華し、作品の魅力をより深く聴き手に伝えてくれるのだ。
絶えず作曲家の目線に立ってピアノに向かう彼ならではのアプローチといえよう。ノクターンやマズルカといった音数の少ない作品においては旋律の多彩な歌い回し、自在なリズムの緩急によって、作品に内包された「心の歌」を表現していく。横山の完璧なまでに研ぎ澄まされた技術は、あくまでショパンの音楽の本質に迫るための「手段」でしかないと思わせるのだ。
アルバムの最後に収録された「別れの曲によるお別れの作品」は、横山自身が編曲したものであり、共演の中島彩、川田健太郎、田中照子は横山と親交のあるピアニストである。
ショパンの作品から生み出される新たな旋律や煌びやかなパッセージは、ショパンの作品に対する横山の解釈や想いが溢れ出たものであろう。
華やかさだけではなく、聴く者を包み込むような"慈愛"のようなものを感じさせる。横山のショパンとの関わりの一つの集大成ともいえる作品ではないだろうか。
数年前、私は横山にインタビューをした際、演奏の秘訣を尋ねたことがある。それに対して彼は「自分自身が書いているようなつもりで」作品に取り組むことだと話してくれた。
作品に対する真摯かつ意欲的なアプローチは、今後も、驚きと感動に満ちた演奏や企画を生み出して、聴き手を感動させてくれることであろう。
解説:長井進之介
【演奏】
横山幸雄(ピアノ)
*横山幸雄(編曲)、中島彩、川田健太郎、田中照子(ピアノ)
【録音】
2016年8月29日〜30日 上野学園 石橋メモリアルホール