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晩年ヨーロッパで神のごとく崇められたセルによる、明晰を極めたベートーヴェン。
オリジナル・マスター・サウンドへの飽くことなきこだわりと、Super Audio CD ハイブリッド化による圧倒的な音質向上で高い評価をいただいているESOTERICによる名盤復刻シリーズ。
発売以来決定的名盤と評価され、現代にいたるまで、カタログから消えたことのない名盤をオリジナル・マスターからDSDマスタリングし、世界初のSuper Audio CD ハイブリッド化を実現してきました。
当ディスクは、当リマスター・シリーズでは過去にオイストラフやフルニエとの協奏曲で登場したジョージ・セルが、晩年にヨーロッパで残した記念碑的なベートーヴェン録音を世界で初めて、Super Audio CD ハイブリッドとして発売するものです。
序曲ばかりが有名な「エグモント」ですが、1970年の作曲者生誕200年を機に、ドイツ・グラモフォンからカラヤン/ベルリン・フィル盤が、そしてデッカからはこのセル/ウィーン・フィル盤が相次いで発売され、作品の知名度アップに貢献しました。
セルはクリーヴランド管では序曲を除いてこの作品を指揮しておらず、おそらくこの録音が生涯唯一の演奏になったのではないかと思われます。
セルが亡くなる約8か月前の録音で、結局はセルの追悼盤として発売されることになりましたが、一瞬の緩みもない筋肉質な音楽は全盛期のセルそのもの。
1950年代まではオペラ指揮者としてのキャリアが長かったセルらしく、アリアでのローレンガーを支える呼吸感や情景描写も見事です。
録音はデッカのウィーン録音の拠点であったゾフィエンザールで行われ、明晰かつ精細なセルの音楽づくりのもと、ウィーン・フィルの濃密な響きが立体的に整理され、ティンパニの粒立ちまではっきりと捉えた、デッカらしい鮮明なサウンドで収録されています。
クレールヒェンの情熱的なアリアを歌うローレンガーも存在感が大きく、その迫真的な歌唱がリアリティをもって再現されています。
当ディスクの交響曲第5番は、1966年11月、セルにとってコンセルトヘボウへの最後の客演の機会にフィリップスによって録音されたもので、この時は10回の演奏会をオランダ国内で行い、そのうち5回でこのベートーヴェンの第5番を指揮しています。
セルのベートーヴェンの交響曲といえば、1957〜64年にかけてエピック/コロンビアに録音したクリーヴランド管との全曲が知られていますが、このコンセルトヘボウとの第5番は、1963年10月のクリーヴランド管との同曲の録音からわずか3年での再録音であり、専属契約が厳しかった当時としては異例のことでした。
クレジットはないものの本拠地コンセルトヘボウで録音されたと思われる第5番ですが、ボディのあるオーケストラのサウンドがホールの残響に埋もれず、血の通った立体的な響きとして眼前に現れるのは、録音会場の特性を知ったフィリップスのエンジニアの耳の賜物でしょう。
コクのあるコンセルトヘボウの個性的な木管パート(特にホルン)の動きが手に取るように捉えられ、弦楽パートを含む全オーケストラとのモティーフの絡み合いが面白いようにクリアに聴こえるのは、セルの鍛錬によるものでしょう。
ベートーヴェンが一つの小さなモティーフをもとに組み立てた立体的な建築物のような趣があるこの交響曲の構造を透かし彫りするかのようです。
興が乗ったセルの唸り声や指揮台を踏む音も収録されています。
この2つのベートーヴェン録音は、セルの全ディスコグラフィの中でも重要な録音であるため、アナログ時代にも必ずカタログに残されてきたもので、CD時代になっても「エグモント」は1988年に「レコード芸術」の名盤コレクションでいち早くCD化され、1996年には「クラシック・サウンド」で20ビット・リマスター、2015年にはタワーレコードの企画で24ビット・リマスターが行われています。
また第5番も1998年にノーノイズ・システムでリマスターされた「レジェンダリー・クラシックス」でCD化され、2001年には「フィリップス・グレイト・レコーディングズ」、2004年には「アナログ名盤50」でハイブリッド盤として発売され、2015年にはタワーレコードの企画で24ビット・リマスターも行われました。
今回のSuper Audio CD化に当たっては、これまで同様、使用するマスターテープの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。
特にDSDマスタリングにあたっては、D/Aコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターとに、入念に調整されたESOTERICの最高級機材を投入、またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を余すところなくディスク化することができました。