■ パッシブプリアンプは増幅回路を持たないためアンプではないのですが、入力切替機能付のアッテネーターとなります。
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パッシブプリアンプに関しては以前から賛否両論があり、様々な議論がされてきました。
80年代後半頃なので30年以上前となりますが、私自身も当時、話題に乗ってシステムに組み込んだ経験があります。
ゼネラル通商が発売していた「Penny&Giles社」のスライドボリュームを搭載した「PAF-3022W」でした。
その後、より高級なモデルで、銀接点のモノラルフェーダー仕様の「PAF-1120W(II)」なども発売されて話題となったのを思い出します。
その他にも代表的なパッシブとしては、フィデリティリサーチ「AS-2」、カウンターポイント「SA-121st」、ラックスマン「AT-3000」(順不同)などがありました。
ハイエンドオーディオではチェロの「Etude」(1980年後半)が存在感ありましたが、当時でも40万円近くして全く手が届きませんでした。
当時私は、プリメインアンプのパワーアンプ入力にダイレクトに接続して使っていました。
確かに使うことによって、ロスレスのピュアでストレートなサウンドが魅力的でしばらく使っていましたが、本格的なプリアンプと比べると、中低域のエネルギー感や、立体的な音場感に違和感を感じて、次第に使わなくなりました。
当時は、音の純度はパッシブで、音楽の完成度はアクティブでと言う議論でしたが、いつしかパッシブ方式は製品としてはほとんど無くなってしまいましたね。
アクティブ方式の優位性としては、インピーダンスの変動が無いこと、また高インピーダンスで受けて低インピーダンスで出力するため、信号が安定してパワーアンプの動作が楽になる、CDからの出力と較べて電圧の規格は同じでも電流が大きくW(仕事量)で比較すると差があるなどが言われています(もちろん機種によります)。
最近ではフェーズメーションが超弩級のパッシブプリアンプ「CM-1000」「CM-2000」などを発売して話題となっており、健在でもあります。
私個人的には、先日ご紹介したソウルノートの「P-3」などのプリを使ってみて、やはり「プリアンプを制するものは、オーディオを制す!」と感じておりました。
さて、フィデリックス社から新発売されるのはバランス仕様のパッシブ型プリ『 TruPhase (トゥルフェイズ) 』です。
内部のコンストラクションは多くのパッシブプリと同様に、入力のセレクターと音量調整用のアッテネーターのみの簡単なものです。
フロントパネルには左にセレクター、右にアッテネーター、そしてこのプリの名前にもなった位相を反転させるスイッチが中央にあります。
◆ 主な特徴をご紹介 ◆
(1) バランス接続で位相を180°回転させる事ができます。
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型番の由来は「True Phase」からのもので、絶対位相(両方の位相が反転)を瞬時に合わせられると言う意味を含みます。
アンプのバランス端子のHOT番号が異なる機器を接続できるのはもちろんですが、主な目的は録音時の逆相を是正するために設けられています。
基本的には録音の絶対位相はほとんど合っていますが、録音時期やレコード会社や録音エンジニアによっては逆相となっているものもあるようです。
古い時代の録音ソースは特にあまり神経質に言われてなかったこともあり、位相(特に絶対位相)管理についてあまり指摘が無かったようです。
詳しい方が、ある年代のレコードを調べてみると、約60%は位相が合っていて、30%は逆に、10%は不明だったそうです。
この位相に関してはかなり個人差があり、分かる人と、分からない人(違和感を感じる人と感じない人)がいると思われますが、近年のワイドレンジでS/N比の高い、最新機器では明らかに違いが分かるようになってきているのではないでしょうか。
特に人の声や打楽器などでは分かり易く、位相反転機能がプリアンプの必須項目としている方もいらっしゃいます。オルガンなど全く分からない楽器も存在しているそうです…。
開発者の中川氏曰く「必ず合わせてくださいという強い意味ではありません、自由で良いと思います」との事です。
フィデリックス社には超ローノイズ設計を誇るフォノイコライザー「LEGGIERO」があるのでXLR接続で組合せると面白いのではないでしょうか。
※反転できるのはXLR入力端子のみとなります、RCA端子入力では機能しませんのでご注意下さい。
(2) 21接点のロータリースイッチを用いたアッテネーターを採用。
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通常パッシブ方式はボリュームを絞る(小音量時)ほどに音が悪くなることは承知の事実です。
音量調整の一般的な設計ではツマミの位置が9時〜10時付近に良く使われる音量をセットされますが、この「TruPhase」ではPRO仕様の、2時付近に標準音量が来るように設計されています。
実際に使ってみると初めはなかなか音量が上がらず最初は「あれれ?」と思いましたが、この設計の方が小音量時の音量調整は圧倒的に使い易いので直ぐに慣れると思います。
更にこの仕様により、高能率スピーカーや大出力パワーアンプを接続した時に問題となる、音量を絞ったときのサーノイズを抑えることに成功しています。
この効果は大きく一般家庭の音量では圧倒的に有利となっていると思われます。
(3) フローティング接続の、2連ボリュームを採用。
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ロータリースイッチ方式の場合、バランス接続には通常4連ボリュームを使いますが、ボリュームを2連にしてシンプルにすることによって音質向上ができないかと考え、同社の「STACCATO」に搭載されていたフローティング接続を採用し、2連ボリュームでも音質的に全く問題なく使える事が確認され搭載されています。
一般家庭ではバランス接続(4連)による外来ノイズをキャンセルするメリットは実質的にはほとんど無いとの事です。
抵抗には20式のアメリカPRP社製高音質抵抗を使用するなど高音質に拘った仕様となっています。
(4) セレクタースイッチは8回路5接点を採用しアースを完全に分離
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一般のセレクターはアースが共通で信号のみをセレクトしておりますが、アースも切り替えるべく8回路5接点のスイッチで完全な切り離しをしています。
内部はバランス接続対応になっている為にセレクターは四連の物を使用しています。
電源は極性によって音が変わる事はすでによく知られております、これはアースに電流が流れる弊害からですが、これをなくすには、アースを繋がないことが正解です。
※ 注 意 ※
このセレクター設計により、入力の切り替え時には結構な音量のノイズが出ますのでご注意下さい!!
パワーアンプのボリュームを絞るか、ボリュームの無いパワーアンプでは電源を落とす必要があります。
大出力でボリュームの無いパワーアンプで、フルパワー状態で切り替えるとスピーカーを破損させる可能性があります。
頻繁に入力を切り替える方にはちょっと使いにくいと思いますので予めご了承下さい。
■ その他
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入力端子:XLRx2系統、RCAx3系統
出力端子:XLRx1系統、RCAx1系統
さらに、これ以上の機器を接続したい場合は、別なパッシブの入力セレクターか「TruPhase」の追加購入をお勧めいたします。
XLR出力は位相が反転でき、XLR入力とRCA入力の双方を出力します。一方、RCA出力は、位相反転ができず、XLR入力の出力をしません。
回路ループの最小化、振動モード対策、電磁波の吸収効果など細部におけるノウハウを投入。
モガミ電線の無酸素銅でポリエチレン被覆線を採用。
■ 試聴しました
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驚くほどの豊富な情報量と、高い解像度を誇る音質です。
音源から全く劣化を感じさせないストレートな再生音は、今までのパッシブフェーダーの常識からは信じられないほどで、音の厚みや力感が痩せる事は一切無く、広い音場、音の純度はもちろんの事、音源の陰影すらも再現できる表現力はハイエンドのアクティブプリアンプと対等に渡り合える、最高純度の音の表現力を聴かせてくれました。
これだけの高音質を備えていて、この価格は非常に高いコストパフォーマンスと言って良い製品です。
■ ご使用環境により評価の分かれる商品と思われます、こんな方に特にお勧めです。
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とにかくコストパフォーマンスの高い高品質なプリアンプが希望である。
低能率のスピーカーを使っている(最近のあまり大きくないスピーカー、音圧レベル90dB以下)。
高品質で低出力のパワーアンプを使っている(シンプルなシングル増幅やプッシュプルなど)。
パワーアンプにボリューム(ミュート)が付いている。
入力ソースをあまり切り替えない。
ソースの逆位相が気になっている、位相に敏感である。
(ichinose)
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