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[ 2021年 8月 3日付 ]

 コルグの真空管ヘッドホンアンプキットを組み立てレポート!

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "とうふ" です。

今回は、KORGから発売されている「Nutube(真空管)」を搭載したポータブルヘッドホンアンプの自作キット「Nu:tekt HA-S」をご紹介します。

楽器メーカーで知られる「KORG」が、ポタアン市場に参戦! しかも次世代真空管「Nutube(ニューチューブ)」を搭載した注目モデルです。はんだ付けは不要で、初心者でもすぐに組み立てることができ、お気に入りの音楽を、いつでもどこでも高音質で楽しむことができます。


可愛らしいミント缶ケースに収納される高音質ポータブルヘッドホンアンプ。入力はアナログ1系統、出力も1系統とシンプルな構成で、「Nutube」による真空管サウンドを手軽かつ気軽に楽しめるのが最大の魅力です。


■ 次世代真空管「Nutube」とは?



早速組み立て・・といきたいところですが、その前に次世代真空管「Nutube」の概要をご紹介しておきます。現在流通している従来型の真空管は、すでに製造されてかなりの年数が経った流通在庫であったり、中国・東欧あたりが昔の製造機器を使って細々と作り続けているものがほとんどとなっています。

今回ご紹介するKORGの「Nutube」は、ノリタケ電子との共同開発によって新開発され誕生した、全く新しい真空管です。「Nutube」は蛍光表示管(VFD)の技術を応用しているため、薄型のソケットタイプとなっている完全アナログの次世代型真空管です。従来の真空管と同様にアノード、グリッド、フィラメントで構成されていて、完全な三極管として動作します。

真空管と同様の豊かな倍音特性を、より小型で安定したエネルギー効率の高い方法で実現している画期的な製品です。そもそもVFD自体が真空管の原理を応用している表示管なので、逆転の発想により生まれた特性を持つ真空管と言えます。

特徴は低消費電力(何と従来の真空管の2%の超省電力設計!)、更に高信頼性、長寿命と優れた特徴を持っています!


■ 初めて「Nutube」の試作品が発表されたのが、2015年でした…

楽器メーカーのKORGが作ったということで、ピュアオーディオ製品へ応用は発表されていませんでしたが、2018年にDAC+プリアンプ「Nu-1」が発表されましたが、価格は425,000円(税別)とハイエンド製品で高価なものでした。2019年〜2021年のオーディオ各賞を多数受賞しているお勧めのDAC+プリアンプです。



そして、2020年突如として現れたのが、今回ご紹介する、破格の低価格で製品化を実現したシンプルなポタアンキットの「HA-S」で、いろんな意味で衝撃的でした。


■ まずは「HA-S」キットを確認していこう。



メイン基盤は手のひらサイズで、中央部に単三電池2本のソケットがある。前面にはボリューム、電源スイッチ、ステレオミニのアナログ入出力端子とシンプルな構成。

軽くてコンパクトなミント缶を採用し、内部にある「Nutube」の光が透けて見えるケースデザインを採用。

DC-DCコンバーターを使うことで、電池からフィラメントの電源を生成するときに効率よく変換し消費電流を抑え、バッテリー寿命を改善。 電池寿命は、アルカリ電池使用で約9時間の長寿命を実現しています。

もちろん、サウンドに妥協はなく、単三乾電池2本だけで26Vのライン電圧を作り出し、Nutubeを駆動しています。


■ では早速、組み立てをして行きましょう。

まずは、全てのパーツを取出して、説明書に記載されているパーツ・リストを見て欠品が無いか確認しましょう。





Nutubeは最新の真空管とはいえ、やはり衝撃には弱いので、周囲全体にクッション材を貼り付けて、宙に浮かせた状態にします。



Nutube本体は、すでに基盤に実装された形で同梱されており、マルチケーブルでメイン基板と接続します。



真鍮製六角スペーサーを、内歯ワッシャーを挟んで基板に固定します。ネジが2種類あるので前後を間違えないように確認して取り付けましょう。これでメイン基板は完成です。





メイン基盤が完成したら、シャーシの底面に絶縁シートを貼り付けてから滑らすように収めます。



基盤後方は2本のネジでシャーシに固定します。



前面のボリュームをワッシャーを挟んでを10mmのナットで固定します。



ボリュームツマミを精密ドライバー(マイナス)で固定します。



電源はアルカリ単三電池x2本(別売り)が指定されています。



半透明のアクリルふたに乾電池を抑えるスポンジを貼り付けて、閉じれば完成です。



完成しました。



上部のカバーは半透明のアクリル製で、電源を入れると中のNutubeがほんのりと輝いて見えるようになっています。





■ 色々いじれる設計

本機「Nu:tekt HA-S」は、天板が簡単に開けられるようになっていて、内部のスイッチや半固定抵抗を調整することで、音質を変えたり、各種調整ができるように設計されています。


■ NFB(負帰還・Negative-Feed-Back・ネガティブ-フィード-バック)と無帰還の切り換えスイッチが搭載されています。



負帰還というのは多くの増幅回路で使われる仕組みで、出力の逆位相信号を減衰させて入力側に返してやるフィードバックする構造、これにより歪みなどが打ち消され、安定した増幅ができる回路です。負帰還を選ぶと、歪み率が改善されますが、真空管ならではの倍音は低減し、高音質なクリーンで澄んだ“ハイファイ傾向”のなサウンドになります。

一方、無帰還はフィードバックを使わずにそのまま出力する方式で、真空管回路の特性や特徴がそのまま出力されるので、Nutube(三極管)の持つ、温かみのある倍音豊かな真空管らしいサウンドが再生されます。

「Nu:tekt HA-S」のデフォルトは、もちろん無帰還に設定されていますが、ソースやヘッドフォンに合わせて切り替えて楽む事ができます。


■ 基板の半固定抵抗で、左右のバイアス電圧とアノード負荷抵抗値が調整可能。



基本的には調整後に出荷されているので触る必要はないですが、左右の音量が違う場合などの時は調整する事ができます。調整する際は、元に戻せるようにスマホなどで写真撮影しておくことをお勧めします。

写真の左がバイアス調整ボリューム、右がアノード負荷抵抗調整ボリュームで、どちらも左右ペアになっています。変化は、バイアス電圧はボリューム調整用として、アノード負荷抵抗はトーン調整用となります。


■ ボリュームの後ろには、オペアンプのソケットがあります。



ソケット式で簡単に交換が可能です。JRCの正統派で知られる「NJM4580」が標準搭載されていますが、交換用としてJRCのプレミアムオーディオ志向「MUSES01」が付属しています。

「MUSES01」は1個3500円もする超高級オペアンプなので、これは出血大サービスです!

「NJM4580」もオーディオ用のオペアンプですが価格は1個数十円ぐらいと安価ですが、「MUSES01」の方が全ての点で圧倒的に高音質とは言い切れ無いのは面白い所ですね。


■ 仕 様 ■

・真空管:Nutube 6P1
・入力端子:アナログ・ステレオミニx1系統
・出力端子:アナログ・ステレオミニx1系統
・出力インピーダンス:10Ω
・推奨負荷:15Ω以上
・電源:単3アルカリ乾電池2本(別売)
・電池寿命:アルカリ電池で約9時間
・外形寸法:111×65×29mm(幅×奥行き×高さ)
・重量:110g(電池を含まず)


■ 担当者のレポート

キットとはいえ、作業はほぼネジ止めだけなので、誰でも確実に完成させることができます。組立て時間は、慎重に作業しても30分程度で完成させられるのではないでしょうか。

今回は「iPhone XR」にアナログ変換アダプターを使用し、ステレオミニケーブルで「Nu:tekt HA-S」と接続。ヘッドフォンは普段から聴き慣れているSHUREの「SE-535」を使用しています。

アナログ入力しかないのは残念なところですが、この価格、この音、加えて真空管方式のポタアンを持ち歩けるというのは大きなメリット! Nutubeは振動に弱く、ポータブルにはどうかと懸念する声もありますが、通常の使用環境であれば、まず問題なく安心して使う事ができます。

NFBスイッチによって「ON」でトランジスタ的な高音質でクリーンで澄んだ音と、「OFF」での豊かで本格的な真空管サウンドを切り替えられるのは素晴らしい点です! 当然ディフォルトはNutubeの味を楽しめる無帰還になっています、基本設計が優れているため、極端にSNが変わるという感じではないことを報告しておきます。

標準はNutubeの味を楽しめる無帰還がお勧めですが、気分やソースによって切り替えるもよし!! 更に、オペアンプの交換で音の変化を楽しめるのも嬉しく楽しい設計です。オペアンプは標準装備されている「NJM4580」がバランスが良く十分魅力的なサウンドを聴かせてくれます、さすがスタンダードオペアンプと言えます。

その後「MUSES01」に交換してみたところ、さすがに高級品だけあって、何とも艶っぽくワイドレンジなサウンドに変化、これはこれで魅力的! オペアンプの交換はかなりの変化が楽しめるので、機会があれば、色々なオペアンプを試して見たいですね。

交換の際は、設置向きや規格を確認して実施してください。付属品以外のものに交換する際は、あくまで自己責任となりますのでご注意下さい。

可愛らしいミント缶ケースも魅力的で、自分で作ったポタアンは愛着が湧きますし、聴く音楽は、また格別なものになるでしょう。完成品はしっかりとした作りで雰囲気がよく、半透明のカバーから光るNuTubeが見えるのも心憎い演出ですね。
(とうふ)


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