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音場工房

[ 2023年 11月 7日付 ]



マランツの日本国内専用スペシャルモデル『 PM-12-OSE 』を改めて確認してみた


ハイエンドオーディオ担当の "ichinose" です。
今回ご紹介するのは、2018年に発売された「PM-12/FN」をベースに、潜在能力を限界まで引き出したスペシャルチューニングモデル『 PM-12-OSE 』です。ベースモデル「PM-12/FN」の音質キャラクターを変えることなく、音の品質を大幅に高めることが、OSE(オリジナル・スペシャル・エディション)の命題とされ、開発されています。発売は2020年2月で、3年以上が経過していますが、この製品の音質や完成度に匹敵する後継モデルは発売されていません。
また、ハイエンドレベルのスピーカーと組合わせることが出来る製品としては、抜群のコストパフォーマンスと言える逸品なんです。

ベースモデル「PM-12/FN」は、マランツのフラッグシップモデル「PM-10-S1」のコア技術である「電流帰還型プリアンプ+スイッチング・パワーアンプ構成」を継承しながら、約半分の価格を実現するという、非常に難しい使命を帯びて誕生した製品で、構成パーツの選択にはコストと性能のバランスをとる必要があり、ある程度の妥協は実際にあったと、マランツ・サウンドマネージャーの尾形好宣氏は正直に述べられていました。基本的には、完全バランス回路の「PM-10」をアンバランス回路に変更した製品といえます。バランスをあまり必要としない一般家庭向きには、この「PM-12/FN」のコストパフォーマンスが際立ちました。

今回ご紹介する『 PM-12-OSE 』の開発は、ベースモデル「PM-12/FN」のプリアンプ回路やパワーアンプ部などの完成度はそのままでも十分高かったこと。回路設計を一から設計をやり直すとなると、開発期間と開発コストが必要で、かなりのコストアップは避けられないとの結論でに達し、「PM-12/FN」にファインチューニングを施した製品開発に取り組んだことになったそうです。

『 PM-12-OSE 』への変更点は、マイナーチェンジといえますが、細部は徹底的に見直されているため、実際の音質は大幅なグレードアップを実現しています。主な改良部分は、@金属皮膜抵抗の採用、A銅メッキシャーシの採用、B5mm厚アルミトップカバー、Cアルミ削り出しインシュレーターとなります。


◆日本市場向けの専用チューニング・モデル『 PM-12-OSE 』

アナログオーディオ回路のチューニングとしては、12シリーズの音質傾向を変えることなく、クオリティをアップさせるために敢えてコンデンサーの変更は行わず、抵抗をグレードの高い金属皮膜抵抗に置き換えることで、S/N感の向上とより広い音場空間の再現を実現しています。

金属皮膜抵抗の採用・抵抗の変更に伴い、一部回路構成にも適切な変更が施されており、大幅な音質改善が出来ています。

外見の違いが一見して分るのは「銅メッキシャーシ」と「5mm厚のアルミトップカバー」「アルミ無垢材から削り出されたインシュレーター」でしょう。 これらはコストに大きく影響するパーツだと思いますが、音質面のメリットはもちろんのこと、所有する満足感も、非常に大きなものがあります。

銅メッキシャーシ・アルミパネルか銅シャーシで全面が囲まれた贅沢な筐体を採用。現在、50万円以下では他に見たことのない高級感を感じさせます。

5mm厚アルミトップカバー・上位モデルの「PM-10」と同じ、盛り上がった肉厚のアルミトップカバーで高剛性と高振動対策。

アルミ無垢インシュレーター・アルミダイキャストから重量級のアルミ無垢材性に変更され、耐震性と剛性アップに繋がっています。

『 PM-12-OSE 』は、オーディオと音楽への造詣が深いユーザーが多く、世界でも有数のプレミアムHi-Fiオーディオマーケットである日本市場向けに専用のチューニングが施されたスペシャルモデルです。


◆新開発の「HDAM-SA3」(ハイパー・ダイナミック・アンプ・モジュール)・DCサーボ搭載・電流帰還型プリアンプ

改めて『 PM-12-OSE 』の内部を覗いてみると...、パワーアンプはDクラスのスイッチングアンプを採用することで、従来のアナログアンプでは大きなスペースを独占していた、パワーアンプ回路及びヒートシンクを小型化コンパクト化!

このクラスのプリメインアンプにおいて、かつてないほどの大きなスペースをプリアンプ回路の為に使用しています。このスペースを最大限活かし、音質を最優先した回路設計およびパーツ選定を行い、マランツ独自の「HDAM-SA3」を用いた、電流帰還型アンプにJFET入力とDCサーボ回路を組み合わせた1段構成のプリアンプ回路を採用。

マランツ独自の高速モジュール「HDAM-SA3」。定評ある情報量の豊かさやハイスピードなサウンドに磨きをかけると同時に、カップリングコンデンサーの使用個数を減らし、音声信号の解像度および透明感を大幅に改善。ディスクリート構造で設置場所により適性は設定が施されており、マランツが最も得意とするハイスピードでローディストーションなモジュール回路です。


◆大容量で高品位なプリアンプ専用電源回路

「PM-12/FN」は、プリアンプ専用の電源回路を搭載することにより、パワーアンプによる電力消費量の変動に影響を受けない安定した電源供給を可能にしています。高純度かつ、余裕のある電源供給のために、プリアンプ専用に大容量トロイダルコアトランスを搭載。トランス外周には珪素鋼板とスチールケースによる2重のシールドを施し、漏洩磁束による周辺回路への悪影響を抑えています。
整流回路には、超低リーク電流ショットキーバリアダイオードを採用。また、平滑回路には新規開発のエルナー製カスタムブロックコンデンサー(6800μF/35V)を採用し、高品位かつハイスピードな電源供給を可能にしています。


◆リニアコントロール・ボリューム

ボリューム回路には、新たにJRC製の最新型高性能ボリュームコントロールICを採用。可聴帯域外に至るまで優れた特性を備えており、機械式ボリュームでは構造上避けられない左右チャンネル間のクロストークや音量差が生じないため、空間表現力を大きく向上させることができます。ゼロクロス検出によるゲイン切り替えにより、ボリューム操作時にクリックノイズが発生することもありません。

加速度検出システムにより、ゆっくり回すと0.5dBステップで高精度に、早く回すと素早く音量を調節することができます。可変抵抗体を使用していないため、ボリュームパーツの経年劣化に伴う音質の変化もなく、長期にわたり安心して使うことができます。


◆Hypexスイッチング・パワーアンプ・モジュール

音質に妥協することなしに、これまでのプリメインアンプのサイズの制約を超えた大出力とスピーカー駆動力を実現するために、Hypex社製 nCore NC500スイッチングアンプモジュールを採用。NC500は、電力効率とスペースファクターに優れるだけではなく、低域から高域に至るまで歪が極めて少なく、接続されるスピーカーのインピーダンスにかかわらず周波数特性が変化しないという非常に優れた性能を備えたスイッチングアンプモジュール。

海外のハイエンドオーディオメーカーで採用例の多いHypex社製「UcD」(Universal Class D)を採用した理由は「もちろん音が良かったから」(マランツ 澤田氏)。取り扱いが難しいといわれる、Hypex社のモジュールですが、マランツでは多くの製品で使用実績があり、見事に使いこなされています。

この「UcD」アンプは全てディスクリートのアナログ回路で作られており、厳密にはデジタルアンプというよりもアナログ回路によるMOSFETスイッチングアンプと呼べるものです。

「PM-10」では4基のモジュールをBTL構成で使用していましたが『 PM-12-OSE 』では2基のモジュールを搭載、高さを抑えた筐体ながら200W/4Ωの大出力を実現しています。

また、保護回路の改良によるスピーカーリレーの排除とパワーアンプ・モジュールのシャーシへの取り付け方法の改良により、パワーアンプ・モジュールからスピーカー端子までの経路を約10mmにまで短縮し、接続ケーブルレスで接点数も半減。その結果、ダンピングファクターが「PM-14S1」の4倍以上となり、劇的なスピーカー駆動力の向上を実現しています。


◆マランツ Musical Premium Phono EQ

MM型、MC型両方式のカートリッジに対応する新開発の「マランツ Musical Premium Phono EQ」を搭載。20dBのゲインを持つMCヘッドアンプと40dBのゲインを持つ無帰還型フォノイコライザーアンプの2段構成を採用することにより、1段当たりのゲインを抑え、低歪を実現。音声信号が通過する信号経路はすべてディスクリート回路により構成。

JFET入力とDCサーボ回路の追加によってカップリングコンデンサーを排除し、繊細な音声信号の純度を損なわない増幅を可能にしました。フォノイコライザー基板はスチール+珪素鋼板によるシールドケースに収め、外来ノイズによる影響を排除しています。


◆担当者より

今回は2020年に発売された『 PM-12-OSE 』を振り返ってみました。
先週ご案内した「PMA-2500-NE」と近い価格帯で、このクラスのプリメインアンプの人気を二分しています。同じD&Mグループに属するDENONとマランツの製品ですが、その内容は全く異なっており両者の特徴を活かした設計となっています。

「PMA-2500-NE」の最大の特徴は「UHC-MOS FET」にあり、パワーアンプ側に重点を置いた設計となっていました。今回ご紹介する『 PM-12-OSE 』は「HDAM-SA3」が最大の特徴で、プリアンプ側に重点を置いた設計になっています。

OSE(オリジナル・スペシャル・エディション)モデルのチューニングの中で、かなり高音質に効いていると思われるのは、銅メッキを施した鋼板シャーシの採用だと思います。鋼板の厚みなどはベースモデルと同じながら、表面に導電性に優れた銅メッキ処理という大変高価な加工が施されています。銅素材は電気抵抗が低い金属で、銅メッキ処理によって聴感上のS/N感が飛躍的に向上、ハイエンド機器ならではの静けさを表現できている製品と思います。

「PM-10」と同じ5mm厚のアルミニウム製トップカバーの搭載も、OSEならではの贅沢な装備といえます。非磁性体であるアルミニウムを採用、筐体全体の剛性も格段に向上し、音質的向上はもちろん、高級機らしい精悍さを醸し出し、所有する満足感も向上させてくれます。

OSE化の重要な命題は「マランツ12シリーズの音質キャラクターを変えることなく、音の品質をグッと高めること」。
内部パーツの変更は、主に固定抵抗器を金属皮膜抵抗への交換で主なチューニングを実施、プリアンプ回路から音質改善効果が認められた17カ所の換装でOSEの音質チューニングが施されています。ただし、標準価格は5万円の上昇に抑えられており、大幅な音質向上を考えると《 超お買い得感 》があります。

PHONO(アナログ)入力の充実も注目です。
「マランツ Musical Premium Phono EQ」は信号経路はすべてディスクリート回路により構成された本格的なフォノイコライザー回路で、電源は効率的にプリアンプの強力電源を利用。プリメインアンプとは思えないクオリティーで低インピーダンスMCでもその良さを引き出してくれる実力を持っています。入力端子もCD入力とPHONO入力だけ、削り出しの高音質端子が装備されています。

電源インレットタイプが装備されているので、市販の別売り高級電源ケーブルでグレイドアップが出来ます。
また、接点は2P構造(アース端子なし)のため、アースループの心配が無いタイプとなっています。電源ケーブル交換での音質改善はかなり効果が出ますので是非ご検討ください。


◆日本橋店で試聴してきました。

オリジナルと比べて、感じたのは静けさの違いです、明らかに透明度が上がり見通しが良くなっています。S/Nが良くなったため、スケール感も向上し、音楽が生き生きとしてきました。ボーカルにあった若干のかすれ感もなくなり、驚くほどヌケが良くなりました。そして、低音楽器はより深々と力強く沈み込み、鈍さが取れ、歯切れも良くなっています。

マランツ・サウンドマネージャーの尾形氏も「回路は一切変更せず、基本的には抵抗を換えただけで、電気的な変更はなく、実際測定しても全く差は出なかった」といいます。しかし、「現実に出てくる音がこれ程変わるとは...」と、設計者自身でさえ、正直驚いたそうです。

女性ボーカルの艶やかさ、アコースティック楽器の倍音表現や響きの美しさ、解放感が向上した音場空間の表現と、透明感がアップしたクオリティの高さは見事です。
ハイエンド領域のスピーカーと組み合わせて楽しめるプリメインアンプとしてお勧めいたします。





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