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[ 2016年 11月 22日付 ]

オルトフォン「SPU#1S #1E 」。それは古くて新しいカートリッジ〜アナログのレジェンド“SPU”が現代に甦った!!〜

ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
本日は、オルトフォンよりカートリッジの往年の銘機“SPU”の最新モデル「SPU#1S & #1E」をご紹介!
アナログファンなら誰もが憧れた最初期モデルのサウンドが現在に蘇ります。


オルトフォンの歴史

ortofon(オルトフォン)はデンマークに本拠を置くオーディオメーカーであり、特にアナログ関連、さらにはMCカートリッジでは右に出るブランドがない程に、世界的にその地位を確立しています。

“オルトフォン”の歴史は、1918年(大正7年)にA.ピーターセンとA.ポールセンが設立した「エレクトリカル・フォノフィルム・カンパーニー」にその源を発します。二人は、この会社から歴史上初となる本格的な音が出る映画システム《SYSTEM PETERSEN OG POULSEN》を発表し、世界中に名を馳せたということです。

“オルトフォン”の名は、ギリシャ語の「真正な」「正統な」を意味する“orto”と、「音」を意味する“fon”を組み合わせた造語で、長きにわたってアナログ再生にこだわり続けてきたメーカーなのです。そして自らが掲げる“ACCURACY IN SOUND(音の精度)”の実現を追求し続けて来たのです。

古くて新しいカートリッジ『SPU#1(ナンバーワン)』

その“オルトフォン”から古くて新しいカートリッジ『SPU#1(ナンバーワン)』がこの夏に発売されました。発売当初から輸入数が少ないこともあり、潤沢に入荷しなかったため、このコーナーでの取り上げを躊躇していました。

しかし、ようやく入荷がコンスタントになったため、数ヶ月遅れにはなりましたが、改めてレポートして参ります。古くからのオーディオファンなら誰もが知っている、またアナログファンなら誰もが一度は使いたいと憧れたカートリッジ。それが“SPU”です。

“SPU”の初代モデルが発売されたのは、ステレオLPが誕生した翌年の1959年(昭和34年)のことです。同社のロバート・グッドマンセンによって開発されました。“SPU”の名前の由来は、「STEREO PICK UP」の略で、まさにステレオ時代到来の申し子のようなネーミングでした。

“SPU”はMCカートリッジの原器とも言われ、これまで数々のバリエーションが世に送り出されてきました。21世紀の今日まで半世紀以上にも亘り、その子孫が増え続けてきたのです。今市場に流通しているMCカートリッジのほとんどが“SPU”の構造をベースにしていることでも、それは明らかです。

“SPU”の従来モデルとの違いとは?

今回ご紹介します『SPU#1』は、その“SPU”シリーズの最新モデルですが、従来と違うのは、新しく開発された素材や技術を投入してワイドレンジを目指して製品化された“ニューSPU”ではなく、シリーズの最初期モデルのサウンドを現在に甦らせることを目的に製品化された“オールドSPU”だと言うことです。

『SPU#1』の開発者は、同社のライフ・ヨハンセン氏で、氏の目指したサウンドは、かつてのオールドサウンドに最大限こだわり、当時を思わせる図太いサウンド、たっぷりと豊かな低域、芯のある中域、きらびやかな高域・・・。それらはまさしく“THE SPUサウンド”とも言えるものです。

この型番の『#1(ナンバーワン)』に込められた二つのメッセージの内、一つ目は昔からのSPUファンに捧げる「マイファーストSPU」。そしてもう一つは、新たにSPUに親しんでもらうオーディオファンに向けた「マイファーストSPU」です。それこそが開発者自身が、この『SPU#1』に自信を持っている証でもあります。

「SPU#1S」と「SPU#1E」の違いとは?

この『SPU#1』には、「SPU#1S」と「SPU#1E」の2機種あり、その違いはスタイラスで、前者が丸針(Spherical)、後者が楕円針(Elliptical)です。それ以外の部分はまったく同一で、カンチレバーがアルミニウム、コイルの線材にはOFCが使われています。内部インピーダンスは2Ω、入力側の負荷インピーダンスは10Ω以下が推奨されています。

そして『SPU#1』が、最も初期のSPUへのこだわりを見せるのがヘッドシェルの材質です。SPU伝統のGタイプのシェルに、なんと木粉と樹脂の複合素材を採用しているのです。あの感覚、初期のSPUをご存知な方は、そのレトロさがまた、たまらないのではないでしょうか。

Gタイプのヘッドシェルは、元々そのずんぐりしたシェル内部に昇圧トランスを内蔵させることを目的に考えられたもので、初期のSPUには超小型の昇圧トランスが内蔵されていました。実際に私自身、今も内蔵型の「SPU-GTE」を使っています。ただ針交換は不可能(針交換でSPU Classic GEになってしまう)で丁寧に使い続けています。

過日、オルトフォンジャパンの某氏に、「トランス付きのSPUが欲しい」と私の希望をぶつけてみたのですが、答えは「現在の技術ではトランスは作れない」とのことでした。それ程に製作が難しく、極小のトランスを作れる熟練工も今はいない(機械では無理)と言うことのようです。

今は外部の昇圧トランスを使うようになったのですが、Gシェルそのものの音の魅力もあって、その形は受け継がれてきました。適正針圧も4g、自重30gと今となっては超重量級ですが、針圧範囲は3〜5gと広く、針圧による音質の違いも楽しめます。

今回の『SPU#1』は、時代とともにSPUの特性が良くなり、その結果として洗練されたサウンドとなり過ぎたことや、バリエーションが増え、高価格になり過ぎたことへの反省から企画されたのではないかと想像します。

試聴しました

試聴は、『SPU#1E』を大阪ハイエンドショーの会場で、じっくり時間をかけてジャズを中心に行いました。 それまでショーの会場のあちこちで聴いてきたハイレゾやCDはもちろん、アナログレコードをデモに使っていた、どのブースの音より、私には最も心地よく聴けたのです。

このまったく危なっかしさのない安定感はどこから来ているのでしょう。やはり4gという重針圧、音溝にグイッと食い込ませているからだろうことが実感出来ました。

音楽全体のエネルギーバランスは典型的なピラミッド型で、周波数帯域は決して欲張っておらず、情報量も最新のMCカートリッジには及ばないものの、音楽の‘美味しい部分’をすべて拾い出しているようにも感じました。音楽全体の骨格がしっかりしており、中域の厚みは他を寄せ付けない“SPU”ならではの魅力でした。

必要な帯域をしっかり抑えた結果、ザワツキ感やピーキーな部分もなく静かでS/N感も十分でした。また、一般的な金属製ではないGシェルならではの響きの良さ、温もりも感じられました。

そして、私が所有しているビンテージ物のSPUと共通した部分は多いのですが、やはりそこは、多少若々しいエネルギッシュさも感じられました。またボーカルの滑らかさもアップしていると感じました。しかし、誰が何と言おうと“SPU”そのもののサウンドではありました。

アナログのレジェンド“SPU”の復活です。

最後に

何より、この価格で往年の銘機 “SPU”を復活させたオルトフォンに感謝です。私には、この『SPU#1』の発売によって、さらにアナログブームが活性化される予感がします。

ジャズファンにご忠告!“SPU”の世界に一歩足を踏み入れた途端、デジタルとは真逆の魅力的なアナログの世界から抜け出せなくなると思います。ご注意ください。

※なお、『SPU#1』シリーズは自重が30gあるため、市販のほとんどのアナログプレーヤーではそのままではお使い頂けません。適合カートリッジ質量が30g以上のトーンアームや、サブウエイトの装着で適合カートリッジ質量が30g以上のトーンアームが搭載されたプレーヤーに限定されます。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。(あさやん)



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