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[ 2019年 6月18日付 ]

 XI AUDIO『 SagraDAC 』はCDの真の実力を引き出す! 〜R-2Rラダー抵抗方式、S/PDIF Blade機能とは〜

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
以前このコーナーでご紹介しました XI AUDIO『 SagraDAC 』を、実際に自宅試聴しましたので、詳しくレポートさせていただきます。


その前に“XI AUDIO”の説明から、“XI AUDIO”(イレブン・オーディオと読みます)は2017年にマイケル・シャオ氏によって設立されました。彼は長年、放送機器をはじめとした業務機のマネジメントを手掛け、かのナグラ・プロフェッショナルの責任者という経歴を持つ技術者です。彼が手掛ける製品は、業務機としての質実剛健さに加え、音楽を楽しむためのエッセンスが組み込まれており、“真実の音”を表現するのが最大の目標だとしています。

“XI AUDIO”という名前は、同社のアンプのボリュームが全て11時(XI)の位置からスタートすることに由来しています。通常、アンプはボリューム位置が大体11時よりも上で使うことを想定して設計されていますが、“XI AUDIO”は絞り切ってもその性能を超えているという自信からのネーミングだと言います。


■ XI AUDIO『 SagraDAC 』
この変わった名前『 SagraDAC 』は“サグラダック”と発音し、その名は、マイケル・シャオ氏が実際に見てその姿に感銘したという、スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア(Sagrada Familia)から来ているそうです。その『 SagraDAC 』には、人々が驚く程の存在感があり、かつ感動する程の細部も備わっていなければならないという意味が含まれているそうです。

『 SagraDAC 』の最大の特長は、前面パネルにも書かれている「R-2R DAC」です。「R」はRegister(抵抗)のことで、抵抗をラダー型に組み合わせたD/A変換部を持っていることを意味していますが、一般的には「マルチビットDAC」と言われているものです。しかも一部のハイエンド機でしか見られないディスクリートで組まれたDACを採用しているのです。

デジタル機器の登場からしばらくの間は「マルチビットDAC」が主流でした。それは今に至るまでほとんど全てのデジタル録音が、PCMを使用して行われており、アナログ信号が一定の解像度とレートでサンプリング(※)されます。(※最新録音では384,000Hz、24ビットというものまであります。)

これをアナログに戻す最適な方法は、「R-2R DAC」を使用して直接アナログに変換することですが、優良なR-2Rチップを作るには技術的な困難を伴い、製造コストがかかるため、現在では1ビットのデルタシグマDACが一般的となっています。これは低コストでチップとして大量生産できるためで、マルチビットDACチップ(※)で必要な、高コストのトリミング(抵抗の微調整)工程が必要ないからです。(※代表的なマルチビットDACチップとして、バー・ブラウンの「PCM1704」がありましたが、現在それに代わるマルチビットDACは存在しません。)

そのディスクリートのマルチビットDACには、デンマークのスークリス社製のものを、本機のために特注したそうです。《0.0012%精度》の抵抗を216個(写真)も使用した高精度なもので、非常にコストの掛かる構成です。本機に採用されたのはサイン・マグニチュード方式と言われるもので、抵抗値「R」と「2R」の抵抗を使い、1bitあたり2個の「R+2R」とするもので、結果大規模なものになってしまったのです。『 SagraDAC 』がこの価格に抑えられたのは驚異的でさえあります。



PCオーディオには欠かせないUSB端子からのインプットに関しては一般的に使われるXMOSではなく、イタリアのAmanero社製のUSBコントローラーを採用しており、PCM384kHz/24bit、DSD11.2MHzに対応しています。なおDSDは352.8kHz/24bitのPCM信号へ変換したのち、D/A変換されます。

デジタル入力は、USB(B-Type)以外にはBNC、AES/EBU、I2S(HDMI端子)が各1系統ずつ。S/PDIFが3系統(RCA同軸×2、光TOS×1)用意されています。アナログ出力は、RCAとXLR(シングルエンド構成のため、バッファー回路を通してバランス化)を各1系統装備されています。

そして『 SagraDAC 』のもう一つの大きな特長は、「S-PDIF Blade機能」の搭載です。これは入力のS/PDIFの「RCA2」と「BNC」のみで機能し、S/PDIFデジタル信号の0か1かを判断する閾値(いきち:条件分岐の境目、ギリギリの値)を変えることで、ロックの安定性を上げ、音質を向上させる効果があるとしています。


S/PDIFの転送データは、クロック信号とデータを合成するバイフェース符号という簡単な方法で送られています。しかし端子やケーブルの影響で、パルスが正確な矩形波(くけいは:規則的かつ瞬間的に変化する波形)とはならず、台形になったり波形が乱れたりしてしまい、正しいクロックが復元できず、転送は不安定(最悪時はロックできない)になったり、ジッターが発生してD/A変換の精度が落ちてしまいます。
それを回避するため 、ある電圧(図の横点線)でこの矩形波を捉え、正確なクロックで復元しようとするのがブレイド(片刃の剣で横一文字に切ることからのネーミング)の考え方です。実際には電圧の低い[1]から一番高い「9」までの9段階を耳で聞きながら手動で決定します。これはCDプレーヤーの製造年代やメーカーで、この矩形波に違いがあるのを補正する機能とも言えます。



『 SagraDAC 』の自宅試聴に際しては、同社のフルバランスディスクリートプリアンプ『 Formula P1000 』も同時にお借りして、こちらでも試聴しました。

『 Formula P1000 』は、非常にシンプルでフロントパネルにはボリュームしかなく、電源スイッチはもちろん、XLR統の入力切り替えもリアパネルにあるという、究極のシンプルさです。しかもディスクリート方式にこだわる余り、XLRの4つの出力(L/R、Hot/Cold)をそれぞれ別電源とすることで、フルバランス仕様を実現しています。

入力はXLR×2、出力はXLR×1で、ゲインは最近の高出力のデジタル機器に合わせて、やや控えめな6dBと15dBの切替のみとしています。回路には駆動力に優れたプッシュプル回路を採用し、バイアス電流を通常必要量の10倍とすることで、滑らかなA級動作(極深度A級動作)が得られるのです。パワーアンプと違い、発熱に問題のないプリだから成し得たことだとしています。

『 Formula P1000 』は、マイケル・シャオ氏が過去に自作した真空管プリの経験を生かして製作したもので、真空管では不可能なスペックを実現した、自身最高傑作のトランジスタ・プリアンプだとしています。もちろんボリュームは11時から始まります。


▲「SagraDAC」
試聴は、最初に筆者のリファレンス機器に『 SagraDAC 』のみを接続し、ほとんどCDプレーヤーの同軸デジタル出力で行いました。

まずはその厚い中低域に感動しました。かつてCDでこんな密度の高い、ドッシリした音を聴いたことがありません。とにかく音が全体に太く、超低域は深く沈み込み、低域は張りがあって弾けます。中域にも力があり、充実感、安定感は抜群です。高域は素直かつ伸びやかで、存在感のある力強いものです。

音像がすっくと立ち上がり、どんどん聴き手に迫って来ます。この感じはかつて聴いた2トラ・38のオープンデッキのサウンドを彷彿とさせるものです。特にTBM鈴木勲トリオの「ブローアップ」は圧巻でした。実に生々しく、まさに目の前で演奏しているかのような臨場感。緊張感たっぷりのまさにアナログレコードの世界でした。

余りの存在感のある音に、思わず試聴メモを取るのも忘れ、次々CDソフトを取っ替え引っ替え聴いてしまっていました。バスドラやエレキベースの迫力、中域のしっかりした生々しいボーカル、ピアノや打楽器の立ち上がりの良さ、ギターの弦を擦る生々しさ、フュージョンサウンドの分厚い張り出し感・・・。

そして「Blade機能」を手動で設定してのベストな状態でのサウンドは、音像が鮮明になりフォーカスがピッタリ合ったのです。実在感がさらに高まって感じました。

過去に聴いたことのない、しかしどこか懐かしくもある(マルチビット)サウンドに、感動しっぱなしの試聴でした。

次に、プリアンプに『 Formula P1000 』を使い、パワーアンプに直接バランスケーブルで接続して試聴しました。


▲ 左「SagraDAC」 右「Formula P1000」


上の写真を見ていただくと分かりますが、同一メーカーでありながら大きさ、形、インジケーターの色など一貫性、関連性は全くありません。良い音のためには関係ないとの考えからなのでしょう。

結果は、前述の『 SagraDAC 』のサウンドをさらにバージョンアップしたような、ゴリゴリと迫ってくる骨太サウンド。吹っ切れ感を伴ったストレートで、ある種業務用っぽい、プロ機らしいサウンドでした。特に、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」は圧巻で、力強い迫真の演奏、バックの聴衆が見えるようなライブ感、1961年録音とは思えない生々しさには感動しました。

しかし一方で、ストレートなサウンドが倍加されたことで、しっとり感や滑らかさは多少後退し、左右への拡がりに比べ奥行き感が浅く、若干超高域の情報量も少なく感じました。ボーカルやクラシックなどは、『 SagraDAC 』単独の方がベターとも感じました。

『 SagraDAC 』は、この価格でマルチビットをディスクリートで組んだという画期的なD/Aコンバーターです。CDソフトから本当の実力を引き出したい方、今主流の1ビットDACの音にご不満(音が綺麗すぎる、音の芯がない等)をお持ちのオーディオファイルにこそお勧めしたい、『 マルチビットDAC搭載D/Aコンバーター 』です。


今回ご紹介した『 SagraDAC 』『 Formula P1000 』はこちら