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[ 2019年 9月 3日付 ]

 最新作『 U-BROS-660 』から見えた《 上杉サウンド 》の魅力

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
本日は、真空管式プリメインアンプの最新作『 U-BROS-660 』から見えた《 上杉サウンド 》の魅力について、お話させていただきます。


■ 最新作『 U-BROS-660 』のデザインから、歴史を振り返る


『 U-BROS-660 』は、他のU-BROS型番のセパレートの正統派?上杉アンプのデザインとは違い、前面の上半分のアールが付いた保護カバーが印象的なプリメインアンプです。

このデザイン、実は歴史が長いのです。エソテリック(当時はティアック)が2002年に発売した、UESUGIブランドを付けた400台限定生産の「UT-50」に始まります。

それは、エソテリックが輸入元でもあるタンノイの中型スピーカー(スターリング等)を鳴らすのに最適なアンプとして開発されたのです。現に、当時タンノイ社のリファレンス用としても使用されていたそうです。

「UT-50」は、真空管全盛期に製造された真空管を使用しており、電圧増幅段にはドイツ・シーメンス社製ECC83とECC82、出力管にはアメリカ・ゼネラル・エレクトリック社製6L6GCを採用していました。

6L6GCはプッシュプル動作では50W以上のパワーが出せますが、信頼性と長寿命化を考慮して22W+22Wの出力でした。

その後継機は、2010年の上杉研究所の「UTY-15」まで待たねばなりませんでした。真空管は「UT-50」と同じですが、トランスをタムラ製からISO(タンゴ)製に変更し、ボリューム位置をプリ部の後に移してS/Nを改善、さらに筐体のカラーリングをグレー系から「ウエスギカラー」に変更して、発売されました(販売終了は2015年)。

そして、ステレオサウンドのwebショップのみの期間限定販売でしたが、キット又は完成品として2018年「UT-66」を発売。始めの30台には1940年代生産のシルバニア製の高信頼軍用管の6L6GAYを、31台目以降はGE製6L6GCと、いずれも上杉研究所が保有する希少なビンテージ管を搭載していましたが、惜しまれつつ販売が終了したのでした。

その後、上杉研究所には、定番モデルとしての復活を望む声が寄せられ、それに応える形で製品化されたのが、前述の上杉ブランド「UTY-15」直系の後継モデルとして、同じ6L6系真空管を出力管に使った『 U-BROS-660 』と『 U-BROS-660S 』が登場したのです。

■ 真空管式プリメインアンプ『 U-BROS-660 』について
製品企画の背景にあるのが、上杉研究所の音楽愛好家を第一に考えた製品開発姿勢です。

それにはまず、(1) 使い易いこと (2) 長時間聴いても聞き疲れしないこと (3) 機械のことを忘れて音楽に没頭できること だとしています。

そして、『 U-BROS-660 』で採用されている技術は、この5つになります。

(1) 上杉研究所のプリメインでは初めて、L/R独立のチョークトランス(平滑用)とし、スクリーングリッド(制御格子)用の電源回路もL/R独立にし、さらに徹底したシールド構造をとることで、L/Rのチャンネル・クロストークを改善した。

(2) 同社U-BROSシリーズのプリアンプで採用実績のあるP-G帰還形の1段増幅のプリアンプとすることで、シンプルな構成がとれ歪みを低減し優れた音質が得られた。

(3) かつての真空管全盛時代に製造された低雑音真空管「ECC83」をプリアンプ部に、「ECC82」をドライバーに採用し、高い信頼性を確保できた。

(4) 出力管の4本の「6L6GC」はいずれも独立自己バイアスで動作させており、またスクリーングリッド電圧を抑えた設計としているため、6L6系の真空管なら幅広く無調整で差し替えが可能になった。

(5) 前作「UTY-15」ではGE製の「6L6GC(電力増幅用ビーム管)」の三極管接続でのプッシュプル出力段を構成していましたが、『 U-BROS-660 』ではこの6L6GC本来のビーム管接続にし、6L6系の真空管の本来の音の魅力を引き出せた。

また、『 U-BROS-660 』の機能及び仕様は、次の6つになります。



(1) 今となっては貴重なテープモニタースイッチ(IN/OUT)を装備。録音機やグライコなどの接続が可能。

(2) スピーカー出力端子は4Ω、8Ω、16Ωのスピーカーに対応しており、新旧幅広いスピーカーに対応。

(3) 上杉アンプ伝統の1.6mm厚亜鉛メッキ鋼板による高剛性シャーシを採用。無共振、無振動、無干渉構造を継承。

(4) 信号増幅回路には最近の真空管アンプに見られるプリント基板を使った配線ではなく、同社の40年を超えるキャリアをもつベテランの職人による、芸術的ともいえる手配線を採用。

(5) 『 U-BROS-660S 』は、『 U-BROS-660 』で使われているGE製の「6L6GC」に替えて、シルバニア製の「6L6GAY」となっており、定格出力が『 U-BROS-660 』の14W+14Wから12W+12Wになっています。

(6) 前述の限定品「UT66」ではオプションで別売になっていた真空管保護カバーが、本機では前作「UTY-15」同様標準装備されています。

■ 設計者の上杉研究所代表 藤原氏に、『 U-BROS-660 』について質問してみました。
(1) 本機のフロントパネルについて
2002年発売のエソテリック「UT-50」と全く同じパネル(ノブは改良)を採用。これは安易な物作りからではなく、販売価格を抑えるためだとしています。

(2) GE製の「6L6GC」とシルバニア製の「6L6GAY」の違い
音質差は善し悪しではなく、好き嫌いの範疇とのことです。「6L6GC」も十分ビンテージ管ですが、「6L6GAY」は更に30年以上前に生産された貴重なシルバニアのオールドビンテージ管で、真空管アンプマニアの嗜好に応えるべく採用したとのことです。

(3) プリアンプ部に使われている真空管
プリアンプ管としてテレフンケンの「ECC83」を、ドライバー管にシーメンス製「ECC82」が使用されています。これらはいずれも真空管全盛時代に先進国で生産された貴重な真空管で、ここにも上杉アンプならではの魅力があります。

(4) セパレートアンプと本機との設計方法の違い
規模の違いで達成レベルには相応の違いはあるものの、同一の部品を使用し設計上の妥協は一切ないと断言。機能的には絞られますが「U-BROS-31」のラインプリアンプ部と「U-BROS-30MKII」が同居していると考えて下さいとのことです。(いずれも生産完了)

(5) タンノイは勿論ですが、他のスピーカーでの音質について
メタルキャビの低能率スピーカー以外は十分な音量が得られたとしています。アコースティック楽器の瑞々しさ、切れ込み、弾力感などの真空管アンプに求められる音質的特長は十分クリアしています。

最新のB&W 800D3シリーズとの組み合わせでは、トランジスターアンプにはない魅力を発揮し、真空管アンプの芸術性の高い音質が加わることで想像以上の良い結果が得られたとしています。

タンノイやJBLなどの高能率スピーカーは勿論ですが、ヨーロッパ製の小型ブックシェルフとの混み合わせで、サブシステムとして楽しまれている方も多いようです。

■ 最後に
真空管式プリメインアンプの最新作『 U-BROS-660 』は、上杉研究所のセパレートアンプの凝縮版ともいえるプリメインアンプで、温度感の伴ったリアルなボーカルや木管楽器、真空管ならではの陰影表現や安定感のあるサウンド、そしてプリメインらしからぬ音場表現力は、真空管マニアならずとも注目していただきたいプリメインアンプです。
(あさやん)


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