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ハーベスのブックシェルフ『 新・XDシリーズ 』のコンセプトとは?

2020.9.21

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
今回は、ブリティッシュ・サウンドの代表的ブランド「ハーベス」より、さらなる高みを目指したブックシェルフ型スピーカー『 新・XDシリーズ 』2機種をご紹介します。

■英国 Harbeth(ハーベス)とは?


英国 Harbeth(ハーベス)は、1977年に元BBC研究所のエンジニア:ダッドリー・ハーウッド氏によって設立されました。ハーウッド氏は、かの有名な「LS3/5a」を設計した人物で、BBCモニターに採用されたベクストレーンやポリプロピレンといった新素材を、それまでのコーン紙に代えて実用化した人物でもあります。

ハーウッド氏は、同年「Monitor HL」(日本発売は1978年)を発表。その後「Monitor HL-MkII」「Monitor HL-MkIII」と改良を加え、そして1986年「Monitor HL-MkIV」を発売したのです。ハーベスは次第に人気を高め、スペンドールやロジャース、KEFと並ぶブリティッシュサウンドの代表的ブランドとなったのでした。

しかし1987年、愛弟子アラン・ショー氏にハーベスの未来を託し引退。翌(1988)年、その後同社のメイン機種となる「HL-Compact」の初代機を発売。同年、BBC規格の「LS3/5a」、翌1989年より大型の「HL5」、そして1990年「LS3/5a」のコンシューマーモデル「HL-P3」の初代機と矢継ぎ早に発売したのです。

これらによって今日に続く”HLファミリー”を作り上げ、今回ご紹介します、最新ラインナップ『 HL-P3ESR XD 』『 HL-Compact7ES-3 XD 』、そして『 Super HL5 plus XD(2020年秋発売予定) 』へと改良を重ねて来たのです。

その間の2017年には、同社創立40周年を記念する”アニバーサリー・モデル”を発表。それまでのスピーカーづくりのノウハウとテクノロジーの粋を結集した「Super HL5 plus-A」を国内40ペア限定で発売しました。

”アニバーサリー・モデル”の開発中に、特に力を入れたのは、スピーカーのパフォーマンスをより厳密に分析するため、試聴と測定を繰り返すことでした。同社が理想とする水準との差異を詳細に検討し直すことで、新たな解を見いだすことができたのでした。

それこそがクロスオーバーネットワークに使われている抵抗やコイル、キャパシターなどのパーツをカスタムメイドとすることで、同社が理想とするクオリティーに対する妥協をなくすことができたと言います。

その結果、フラットな周波数特性をはじめとする理想的な特性を獲得し、低域から中域、高域に至る一体感を大幅に向上させることができ、さらに一段高い、新たなパフォーマンスの水準を実現できたとしています。

それを具現化したのが、今回取り上げる『 新・XDシリーズ 』で、「XD」の名は「eXtended Definition」に由来しており、文字通り、分解能・解像度をこれまで以上に拡充させたシリーズであることを意味しています。

■ ハーベス『 HL-P3ESR XD 』


「HL-P3」は、前述のように1990年「LS3/5a」のコンシューマーモデルとしてスタート。1995年改良を加えた「HL-P3ES」、2003年「HL-P3ES-2」、2010年「HL-P3ESR」へと、ユニット構成は110mmウーファー+19mmドームツィーターのまま、エンクロージャーやネットワークに手を加え進化させて来ました。

今回の『 HL-P3ESR XD 』では、前作「HL-P3ESR」で初めてそれまでのポリプロピレン・コーンに替えて採用した「RADIAL 2」コーンの持つポテンシャルを、最大限引き出すことができたとしています。その結果、透明・精度の高い低域、全帯域におけるダイナミズムの獲得に繋がったのです。

「RADIAL」コンポジット・コーンとは、ポリプロピレンのメリットを生かしながら、アルミニウムの配合量を最適化し、さらにダイアフラムの中心から周辺にかけてブレンド量を変えていくことにより、中低域、中高域それぞれの帯域でコーン表面に発生する諸問題を低減するハーベスの独自技術です。

そして「RADIAL 2」では、ポリプロピレンの素材であるポリマーには無数の選択肢の中から、ナチュラルなサウンドを生み出す3種類を厳選しているそうです。それらを可聴帯域全体にわたって最適な機械的・音響的な特性が得られるよう最適な割合で調合しているのだそうです。

ツィーターには19mm口径のアルミニウム・ハードドーム型を搭載。こちらも独自開発の磁性オイルの塗布によって、高温時にも安定した再生能力を保持できるフェロフルード・クーリング処理を施すことで、より正確な再現性を得ています。さらに、Open Weave(目の粗い)グリルを装着することで、高域のエネルギー感や広がり感を向上させています。

当初、既存のクロスオーバーに適合する新しいウーファーを製作するつもりだったそうです。しかし、数週間にわたって試行錯誤した結果、その方向を変更して、クロスオーバーをまったくゼロから再設計することにしたのです。

アラン・ショー氏は言います。『 HL-P3ESR XD 』は、レコーディング時のミュージシャン達と一緒に呼吸し、同じ空間にいるかのような、あの至上の時間を味わうことができるミニモニターだと・・・。

■ハーベス『 HL-Compact7ES-3 XD 』


前述のように「HL-Compact」は、「HL-Compact7(1994年)」「HL-Compact7ES-2(2003年)」「HL-Compact7ES-3(2006年)」と、その歴史は30年以上にも及びます。

「HL-Compact」は発売当初から大ヒットとなり、当時ラックスマンのA級プリメインアンプとの組合せはオーディオ各誌で絶賛され、クラシックファンの定番の組合せとして爆発的な売上を記録したのでした。それは今でも業界の語りぐさとなっています。

その後30年以上にわたって「HL-Compact」が人気を保てているのは、その独自のハーベスサウンドもありますが、他メーカーのように頻繁に改良を繰り返すのではなく、非常に長いスパン(10年以上も)でのバージョンアップを続けながらも、創業当時からぶれることのない、伝統の「ブリティッシュ・サウンド」を守りつつ、進化し続けているからだと思います。

『 HL-Compact7ES-3 XD 』は、2ウェイ・スピーカーの表現力を極限まで追求し、『 HL-P3ESR XD 』同様、カスタムメイドのパーツを採用することや、進化した「RADIAL 2」コーンテクノロジーによって、従来にも増してほとんど乱れることのないフラットな周波数特性を実現し、全帯域にわたっての理想的な一体感を獲得できたのです。

今回の”XDシリーズ”では、その「RADIAL 2」コーンをベストな状態で動作させるため、アラン・ショー氏はひたすらテストを繰り返し、理想的なリニアリティを得られる 従来より柔らかく収縮性に富んだエッジ(サラウンド)を開発したのです。これにより大パワー入力時のリニアリティも改善されています。

そしてアラン・ショー氏が特に重要だとしている鍵は、目には見えない点、すなわちエンクロージャー内のクロスオーバーです。クロスオーバーの要素を一つ一つ改善することで、各ドライバーユニットは緊密に一体化され、水平・垂直いずれにも広大な音場を創成し、再現の難しい楽音も存在感豊かに、透明に再現することが可能になったのです。

多くのオーディオファイルに感動をもたらし、数々の賞に輝いた「HL-Compact7ES-3」もまた「XD」のコンセプトによって生まれ変わり、空気が呼吸するかのような、その濃密なリアリティーと立体感豊かな音場が、新たな次元を獲得したのです。

■ 「XDシリーズ」に対するアラン・ショー氏の思い


アラン・ショー氏は、自身が理想とする水準とのズレを、膨大な作業量、忍耐力、時間により改善することで、外見はほとんど変わっていないにもかかわらず、そのサウンドは大きく変わったのだと言います。これが”XDシリーズ”に共通した最大の特徴であり”Key Technology”だとしています。

ショー氏は、他社のような「全面的な改善」や「○%音質を改善」といった、かつてのモデルを全否定するような大袈裟な主張はしたくないと言います。ハーベスのスピーカーは大金持ちのためのものではなく、ごく普通のサラリーマンのためのスピーカーであり、そうした購入者の想いを裏切りたくないとも言っています。

そして、音楽というのは癒しや安らぎをもたらすものであり、無用の不安を持つことなく、お好きな音楽をゆったりと楽しんでいただきたいとの想いで”XDシリーズ”を誕生させたのです。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。(あさやん)