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B&W「新700シリーズ」 〜ブックシェルフ2機種の実力を探る〜

2017.12.23

こんにちは、ハイエンドオーディオ担当の "あさやん" です。
今回は、コンパクトな高級機といえる本格派スピーカー B&W「新700シリーズ」をご紹介! 上級機と同一素材、同一ノウハウが生かされています。日本橋1ばん館で試聴を行いましたので、そのレポートもあわせてご覧ください。

■B&Wの歴史


まずは、例によってB&Wの歴史を少々・・・

「B&W」、その正式名はBowers & Wilkins(ボワーズ&ウィルキンス)で、ジョン・ボワーズとその友人のピーター・ヘイワードによって、1966年イングランド南部の港町ワーシングで設立されました。それより以前、ボワーズはレイ・ウィルキンスと共同経営する電気店で手作りのスピーカーをお得意様のために組み立てていたといいます。

そして、B&Wとしての市販スピーカーの第一作目が「P1」で、このスピーカーで得た収益で測定装置に投資したのでした。同社は 《 常に最高のスピーカーを幅広い価格帯で製造すること 》 を目標にし、家庭用モニター「DMシリーズ」を手頃な価格で発売。DM(Domestic Monitor)の哲学は、何世代にもわたって優れた性能を備え、かつ手ごろな価格として同社のスピーカーに生き続け、現在の「600シリーズ」へと引き継がれています。

その後1971年代、コーン材料にKevlar(ケブラー)を採用したことから同社の飛躍が始まります。Kevlarは防弾チョッキに使用される繊維で、黄土色のコーンは同社のスピーカーのシンボルカラーともなりました。ご存知の方は少ないかも知れませんが、当時の日本国内の輸入代理店はラックス(現:LUXMAN)でした。しかし残念ながら、当時英国製スピーカーではタンノイ、ロジャースなどの知名度が高く、B&Wは過小評価されていました。

そして1979年発売の初代「801」の登場が同社の名声を決定づけたのです。「801」はスタジオモニターとして、英国アビーロード・スタジオなどの有名レコーディングスタジオに次々採用されたのでした。その実績を踏まえ、次第にオーディオマニア層に受け入れられ、広く日本国内に浸透していったのでした。これが現在の「800D3シリーズ」へと繋がるのです。

1980年代は「801」の成功で得られた資金が研究・開発費に投入され、Matrix構造を採用したエンクロージャーを開発し、「Matrix 1」を初めとした超ハイエンドスピーカーを開発、そして大ヒットした「Matrix801」に至ったのです。ちなみに、当時の輸入代理店はナカミチ(Nakamichi)でした。

90年代以降は、「Nautilus(ノーチラス)」「Diamond(ダイヤモンド)シリーズ」が大ヒットし、製品の充実ぶりや人気・実力のほどはご承知の通りです。その後、輸入業務はマランツ、そしてD&Mグループが担ってきており、今やB&Wは世界一のスピーカーメーカーとして君臨しています。

■新700シリーズ


そのB&Wが今年(2017年末)、国内市場でのスピーカーの売れ筋価格帯に「新700シリーズ」で殴り込みをかけてきたのです。しかしそれは、従来の「CMシリーズ」の後継型番「CM シリーズ3」ではなく、「新700シリーズ」だったのです。何故「CMシリーズ3」ではなく、「新700シリーズ」になったのでしょう。その当たりから探って参りましょう。

「CMシリーズ」の初代「CM1」が登場したのが2006年。2014年発売の「CMシリーズ2」を含め累計販売台数が15万台を超える大ヒットシリーズとなっています。もともと「CMシリーズ」はB&Wとしては突然派生したシリーズで、「CM1」があまりにも高い評価を受けた結果、その後もシリーズは発展を続けたのでした。

しかし今回「CMシリーズ」のモデルチェンジに当たって、本来の弟分である「600シリーズ」と上級モデルの「800シリーズ」との間の型番モデルとして「新700シリーズ」が発売される運びとなったのです。

「新700シリーズ」は、その製品仕様からは「CMシリーズ」の発展型と言えるもので、そこには「800シリーズ」で培ったノウハウが惜しみなく投入され、驚異的な内容を持つ製品となったのです。エンクロージャー形状こそ、ほぼ「CMシリーズ」のままですが、ドライバーユニットやネットワーク回路に至るまで、ほぼ全面刷新といえる内容となったのです。

ただB&Wとしては、市場の要望に応える形であえて「800シリーズ」の様な挑戦的な形状は採用せず、またキャビネットのデザイン変更にはコストも時間も掛かることから、一般的な箱形(直方体)のスピーカーとし、新しいユニットとツイーター・オン・トップやミッドレンジの構造などの基本的なテクノロジーに限定してグレードアップしたとしています。しかし、これらが以下に述べるように想像以上に効果的だったのです。

また型番の並びも、「CMシリーズ」が数字が大きくなるほど上位モデルだったのに対し、「新700シリーズ」では「800シリーズ」や「600シリーズ」同様、数字が小さい方が上位モデルという並びに変更され、この面でも統一され分かり易くなっています。

■ 「新700シリーズ」に投入された数々のテクノロジー


1.カーボン・ドーム・ツイーター
これが「新700シリーズ」の肝となる最新技術で、「新700シリーズ」のために特に開発された新しいテクノロジーです。「600S2シリーズ」で使用されたアルミニウム製ダブルドームと「800D3シリーズ」で使用されたDiamondドームの性能的なギャップを埋めるべく、開発されたツイーターだといいます。

カーボン・ドームは2つの部分で構成されており、前方部はカーボンのPVD(物理蒸着法)コーティングによって硬化させた30ミクロンのアルミ製ドーム、もう一つはメインドームの形に合うように中央部が切り抜かれた300ミクロンのカーボンリングで、メインドームの内側に接合されています。

この結果、質量を過度に増やすことなく、高域の一次共振周波数を47kHz(「CMシリーズ2」は38kHz)まで上げることができ、優れた剛性と歪みの低減を図り、細部に至るまで正確に描き出すことができたとしています。

2.コンティニュアム・コーン
従来のケブラーコーンに替え「800D3シリーズ」で初めて採用されたコーン素材です。織布(ケブラー)にコーティングを施した素材を使ったことで、従来避けられなかったピストンモーションから分割共振モーションへの急激な変化を防ぐ(分割振動を効果的に打ち消す)ことができ、高解像度で開放感のあるサウンドを実現したとしています。

さらにこのユニットには、FEA(有限要素法)によって形状を最適化したアルミ製フレームが採用されており、従来の「CMシリーズ」の亜鉛製フレームに比べ強靱化できたとしています。そしてフレームの正面にチューンド・マス・ダンパーを取り付けることで、不要共振も抑制され、さらにノイズの少ないクリアーな中低域が得られたとしています。

3.エアロフォイル・プロファイル・コーン
「新700シリーズ」のトールボーイ型3機種のウーファーに採用された振動板で、「800D3シリーズ」に使われた高価なカーボンファイバー・スキンに代えて、パルプを素材に用いたもので、サンドイッチ構造体にはEPS(Expanded Poiy-Styrene)を充填素材に採用した新エアロフォイル・コーンが採用されています。

4.クロスオーバーネットワーク

上記写真は新製品発表会で公開された 『 704S2 』 『 707S2 』 のネットワーク基板です。メーカーの新製品資料には一切コメントはありませんが、高級パーツが使われており、従来の「CMシリーズ」から大幅なグレードアップが図られています。

■試聴しました


さて、今回は「新700シリーズ」のローエンド2機種 『 706S2 』 『 707S2 』 を、日本橋1ばん館の小型スピーカーコーナーで試聴しました。どうしてもオーディオ誌等では「新700シリーズ」としてトータルで取り上げられる場合が多く、また上級機に偏った製品紹介になってしまいがちです。今回はあえて、ローエンド機を取り上げてみました。

ダリ「OPTICON1」と並んだ 『 706S2 』

B&W『 706S2 』
従来機「CM5 S2」に相当するモデル。ウーファーが 『 707S2 』の13cmから16.5cmに強化され、広い部屋にも対応すべく、音圧レベルも84dBから88dBとアップし使い易くなっています。スケール感が拡大された結果、音源の細かな部分の再現性や奥行きなどの立体感は維持しながら、よりソースに忠実なサウンドを実現できていました。

クリプトン「KX-0.5」と並んだ 『 707S2 』

B&W『 707S2 』
従来機「CM1 S2」に相当するモデル。特にツイーターがアルミドームからカーボンドームになったことが大きく、明らかに再生帯域が広がり、表現力が格段にアップしています。また、新素材ウーファーの効果も大きく、中低域の解像度が上がり、低域のダンピングの効きが向上し、従来機より引き締まったクリアーな高忠実度サウンドを実現したのです。まさに小さなハイエンド機とも言えるサウンドになっていました。

いずれにも対応する専用スタンド「FS-700S2(ブラック/シルバー)」は別売です。

■最後に


この「新700シリーズ」はローエンド機にも手抜きされた所が全くなく、上級機と同一素材、同一ノウハウが生かされており、間違いなくお買い得感のあるスピーカーです。

従来の「CMシリーズ」の単なる代替えのシリーズではなく、大きく進化を果たしていました。多くの旧シリーズのユーザーにも目標となるスピーカーの誕生です。

この 『 707S2 』 『 706S2 』 こそ、今年国産では最注目のスピーカー・クリプトン「KX-0.5」との良きライバルになることは間違いありません。いずれも 《 コンパクトな高級機 》 と言える本格派スピーカーです。いよいよ小型スピーカーが面白くなってきました。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。(あさやん)